第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

肩関節・徒手療法

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0612] 肩甲下筋腱断裂を伴わない腱板断裂術後患者における肩甲下筋の機能不全の要因

田島泰裕 (安曇総合病院リハビリテーション科)

キーワード:腱板断裂, 肩甲骨位置異常, 筋電図

【はじめに】
肩甲下筋腱断裂を伴わない腱板断裂術後患者において肩甲下筋の機能不全を認める症例をしばしば経験するが,このような症例には肩甲骨の位置異常を認めることがある。しかし,この要因を言及する文献はわれわれが渉猟しえた範囲内では無かった。
今回,われわれは,肩甲下筋の機能不全の原因を明らかにする目的で,Belly press test時における肩甲骨位置と肩甲骨周囲筋の筋活動の特徴を調査したので報告する。

【対象・方法】
肩甲下筋腱断裂を伴わない腱板断裂術後患者のうち術後1年以上を経過した21例21肩を対象とした。症例を,術後1年時に同一検者によりBelly press testを行い,weaknessと評価された9肩(W群)と,powerfulと評価された12肩(P群)の2群に分類した。2群間で性別,年齢,罹患側,断裂サイズ,運動時痛の程度(Visual Analog Scaleにて測定),肩関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転・下垂位外旋・90°外転位外旋・下垂位内旋・90°外転位内旋・水平伸展および水平屈曲),Belly press test時のTh7から下角までの距離の健患差(SSD差),僧帽筋の%iEMGの各項目について比較検討した。なお,僧帽筋の%iEMGは,Belly press test時の僧帽筋上部線維,中部線維および下部線維の筋活動を表面筋電計Noraxon社製MyoSystem 1400Aを用いて測定した。得られた筋電波形を整流平滑化し,筋電図積分値(以下iEMG)を求めた。得られたiEMGを健側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出した。
統計学的解析は性別,および罹患側はχ2検定を,年齢,断裂サイズ,運動時痛の程度,肩関節可動域および%iEMGにはMann-Whitney’s U test用いて行い,有意差5%未満を有意差ありとした。
【結果】
性別,年齢,罹患側,運動時痛の程度および断裂サイズは2群間で有意差を認めなかった。SSD差は,W群1.7cm,P群0.4cmでW群はP群に対して有意に大きかった(p<0.05)。肩関節可動域は,90°外転位内旋角度においてW群が0.7°,P群が18.6°でW群はP群より有意に小さかった(p<0.05)。僧帽筋上部線維の%iEMGはW群198%,P群111%でW群がP群より有意に大きく(p<0.05),下部線維の%iEMGはW群78%,P群113%で,W群はP群より有意に小さかった(p<0.05)。

【考察】
今回の結果から,肩甲下筋腱断裂を伴わない腱板断裂術後患者において肩甲下筋の機能不全を認める症例は①90°外転位内旋角度の制限を認め,②SSD差が大きい③僧帽筋上部線維の過活動と僧帽筋下部線維の活動低下を認めることが分かった。これらを踏まえて,外転位内旋の可動域制限を代償するために肩甲骨が過度に前傾位と外転位になり,その結果SSD差が大きくなり,僧帽筋上部線維の過活動と下部線維の活動低下を引き起こし,肩甲骨周囲筋のアンバランスが生じるので,土台となる肩甲骨の胸郭への固定が不安定となり,肩甲下筋の機能低下を招くのではないかと考えた。
したがって,肩甲下筋の機能不全の要因は外転位内旋の可動域制限であると考えた。

【理学療法学研究としての意義】
肩甲下筋腱断裂を伴わない腱板断裂患者においても肩関節内旋制限や,肩甲骨周囲筋の筋活動の不均衡を生じている症例は内旋筋の筋力を十分に発揮することができない傾向であった。これらのことは,非手術的に治療する場合には当然知っておかなければならない特徴であり,手術を行う場合には術後後療法のメニュー作成において考慮すべき特徴であると考える。