第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

発達障害理学療法1

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0624] 重症心身障害者における肺内パーカッションベンチレーター施行中の動脈血炭酸ガス分圧の変化について

~気管切開例と非気管切開例各1例の比較~

美濃邦夫1, 山本奈月1, 西達也1, 大下浩希1, 青山香1, 永田裕恒1, 久山美奈子1, 大田原幸子1, 重本鈴歩1, 宮下央1, 花田華名子2 (1.旭川荘療育・医療センターリハビリテーション課, 2.旭川荘療育・医療センター小児科)

キーワード:重症心身障害, 肺内パーカションベンチレーター, 動脈血二酸化炭素分圧

【はじめに】
重症心身障害児(者)(以下,重症児(者))の排痰,ガス交換の改善,無気肺の予防・改善の目的で肺内パーカッションベンチレーター(以下,IPV)が用いられ,効果の報告は多い。また,炭酸ガス分圧のモニタリングが推奨されているが,IPV施行中の呼気終末二酸化炭素(以下,ETCO2)を用いた報告は存在するものの,動脈血炭酸ガス分圧(以下,PCO2)を連続的にモニタリングした報告は少ない。ETCO2を用いた先行研究によると「気管切開例(以下,気切例)は非気管切開例(以下,マスク例)に比べてETCO2は低下し,気切例は施行後に無~低呼吸を認めた」とされている。
我々は今回,気切例とマスク例各1例のIPV施行中の動脈血酸素飽和度(以下,SpO2),脈拍数(以下,PR),PCO2を約1年間継続してモニタリングし,比較・検討したので報告する。
【方法】
対象は気切例,マスク例各1例。診断名は2例とも脳性まひで,Gross Motor Function Classification Systemレベル5。
1)気切例:39歳男性。24時間人工呼吸器管理。平成22年5月よりIPV開始(週1回)。期間は平成25年5月~平成26年9月。作動圧20psi,施行時間は15分(Easy Position5分,Average Position5分,Hard Position 2分,Average Position3分)で,48回のSpO2,PR,PCO2をモニタリング。0分/5分/10分/12分/15分(終了時)/終了5分の値を記録し,0分と各時間との値を比較。
2)マスク例:44歳男性。平成22年6月よりIPV開始(週1回)。期間は平成25年10月~平成26年9月。作動圧25psi,施行時間は16分(Easy Position 5分,Average Position5分,Hard Position5分,Average Position1分)で,30回のSpO2,PR,PCO2をモニタリング。0分/5分/10分/15分/16分(終了時)/終了5分の値を記録し,0分と各時間との値を比較。
機器はSpO2,PR,PCO2を非侵襲的で連続的なモニタリングが可能な経皮的炭酸ガス分圧測定器(センテックデジタルモニターシステム,販売元:株式会社東機貿)を使用。検定はWilcoxonの符号付き順位和検定を用いた。
【結果】
1)気切例:SpO2(%)の0分/5分/10分/12分/終了時/終了5分の平均は96.7±1.9/98.8±1.3/99.0±1.3/98.5±1.5/98.9±1.3/97.7±2.0,PR(bpm)は99.2±10.4/93.6±11.8/93.0±10.5/96.7±12.5/93.0±10.9/96.4±12.1であった。0分と比べて全ての時間で有意にSpO2は上昇し(p<0.01),PRは減少した(p<0.01,12分のみp<0.05)。PCO2(mmHg)は41.75±2.8/39.25±2.0/36.40±2.5/34.75±2.7/33.68±2.8/37.66±1.5で,0分と比べて全ての時間で有意に減少した(p<0.01)。
2)マスク例:SpO2の0分/5分/10分/15分/終了時/終了5分の平均は99.2±0.8/100±0.2/100±0.2/100±0.2/100±0.2/99.7±0.5で,0分と比べて全ての時間で有意に上昇した(p<0.01)。PRは87.4±4.3/86.1±6.7/83.6±5.6/81.9±4.0/83.6±4.8/87.0±4.5で,0分と比べて10分,15分,終了時で有意に減少した(p<0.01)。PCO2は39.02±1.1/39.38±1.8/38.01±1.2/36.96±1.4/37.89±1.1/38.16±1.3で,0分と比べて10分,15分,終了時,終了5分で有意に減少した(p<0.01)。
3)2例の比較:2例ともSpO2は0分から5分の上昇が著明で,PRは減少する傾向を示した。PCO2において,気切例は0分から時間とともに減少したのに対し,マスク例は10分から減少した。気切例はマスク例と比べて減少幅は大きかった。2例とも施行後の排痰量増加と呼吸音増強を認め,呼吸抑制は起こさなかった。
【考察】
SpO2上昇はIPVの高濃度酸素投与,PR減少はパーカッションによるリラックス効果と考える。
PCO2は,気切例で5分から有意な減少を認め,かつマスク例より減少幅が大きかった。それはパーカッションがカニューレからダイレクトに入るためと考える。そのため気切例では換気と酸素化が確実に行われる一方で,過換気による呼吸抑制のリスクがあり,PCO2の連続的なモニタリングは重要と考える。一方,マスク例もPCO2は有意に減少したが気切例より減少までに時間を要し,かつ減少幅も小さかった。それはマスクの受容とIPVとの同調に時間を要すること,マスクの不適合やリークの影響が考えられる。よって,マスク例では効果的なIPV施行のためにはマスクフィッティングが重要で,PCO2の連続的なモニタリングはそれらの指標として有効と考える。
今後,この2症例の傾向を念頭に置き,他の症例でもPCO2をモニタリングし,各症例に適した設定の決定に役立てたい。
【理学療法学研究としての意義】
症状が多様な重症児(者)に対し,IPVを安全で効果的に施行するためには各症例の傾向を評価する必要がある。そのためには施行中のPCO2のモニタリングが重要で,これらのデータが各症例の設定を決める上で有用となる。