第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0671] 在宅パーキンソン病患者に対する症状の日内変動に着目した転倒に関するアンケート調査の報告

大野洋一 (高崎健康福祉大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:パーキンソン病, 転倒, 日内変動

【目的】パーキンソン病(以下,PD)患者数は15~20万人と推定され,厚労省特定疾患治療研究対策事業の対象疾患の中では,申請者数が7万人を超え首位を占める疾患である。また,60歳代より急激に増加することから,高齢化に伴いPD患者は今後も増加することが予想されている。PD患者は転倒率が高いことが知られており,6割を超える患者が1年間に転倒を経験するという報告もある。これは一般在宅高齢者の年間転倒発生率25%と比較しても大変高い。また,転倒時の骨折発生率も一般高齢者の2.2倍とされ,PD患者にとって転倒は様々な障害の起点となる予防すべき重要な問題と考えらえる。現在,PD患者における転倒原因としてはPDの進行度,転倒歴,認知機能が重要とされている。その一方,PDは症状の日内変動を生じる疾患であり,症状の変動が転倒に関連しているのではないかと考えた。そこで本研究では,在宅PD患者における症状の日内変動と転倒の関係を調査することを目的に全国PD友の会群馬県支部の協力のもと,アンケート調査を行ったので若干の考察を含め報告する。
【方法】対象は全国パーキンソン病友の会群馬県支部の会員139名とし,回答の得られた72名を対象とした(回収率51.7%)。除外対象として,施設入所中であったもの,本研究における質問項目に無回答部分のあったものとし,47名を本研究の分析対象とした。方法として調査は無記名の選択形式のアンケートとし,質問内容により複数回答や自由記載も可能とした。内容としては,基本情報,福祉,PD症状,薬剤,介助状況,運動機能,ADL,友の会の活動,リハビリテーション,転倒歴など計23項目で約120の質問からなるものとした。本研究における調査対象項目は,転倒に関するものとして1年間の転倒の有無,転倒した時間帯(朝・昼・晩:複数回答可),転倒した場所(屋内・屋外:複数回答可)とした。また,症状の日内変動の状況としてADL・基本動作11項目(歩行・立ち上がり・寝返り・食事・大便・小便・入浴・更衣・洗面・外出・その他)に関して自覚的なON時,OFF時の要介助項目数を調査した。また,OFF時要介助項目数からON時要介助項目数を引いたものを日内変動における症状変化の大きさとした。その他,基本情報(年齢・性別・同居家族数・1週間の外出回数),疾患情報(罹患年数,Hoehn・Yahrの重症度ステージ分類),薬剤情報(PDに対する薬剤の1日の内服錠数)に関しても本研究の調査対象項目とした。統計は1年間の転倒の有無により対象を転倒群と非転倒群の2群間に分け,各項目のおける2群間の差の検定を行った。有意水準は0.05%未満を統計的有意とみなした。
【結果】本研究における1年間の転倒発生率は63.0%(29名)であった。転倒の時間帯は朝8名,昼20名,夜10名であった。転倒場所は屋内23名,屋外12名であった。日内変動の状況,基本情報,疾患情報,薬剤情報における2群間の比較では,日内変動におけるON時,OFF時介助項目数でともに有意に転倒群で介助項目数が多い結果となった(p<0.05)。その他の項目では有意差は認めなかった。
【考察】本研究の結果より,転倒率や転倒場所はPDに関する先行研究と同様の傾向となった。転倒の時間帯として,高齢者を対象とした先行研究では,施設入所者は排泄動作に関連した活動性の上がる早朝や夕方に転倒発生率が高いとされ,一般住民では外出の機会が多い時間帯の発生率が高いとされている。本研究では在宅PD患者を対象としているため,一般住民と同様に活動量の上がる日中での転倒が多い結果となったと考えられる。2群間での比較では,症状の日内変動の状況を問わず介助項目数の多いものほど転倒している傾向が示唆された。転倒には内的因子(個体側)と外的因子(環境)があり,PD患者では姿勢反射障害やすくみ足など内的因子による転倒が多いとされている。そのため,転倒リスクの高いものほど様々なADL・基本動作において動揺に対する介助が必要になることが予想されこのような結果となったと考えらえる。
【理学療法学研究としての意義】PD患者にとって転倒は,歩行やADL能力低下を引き起こす重大な問題である。また,転倒に対する恐怖心は外出機会を減少させ社会との交流を減らし,うつ症状や認知症状など精神機能の障害も引き起こす。本研究の成果は,在宅PD患者における転倒傾向を把握し,転倒予防を行うための一助となると考えている。