[P2-A-0742] 心臓リハビリテーションにおける至適運動強度と心臓超音波検査および足関節上腕血圧比検査による評価との関係
キーワード:至適運動強度, E/e’, ABI
【目的】心臓リハビリテーション(心リハ)は心疾患患者のQOL向上や予後改善効果があるとされ,近年重要度が高まっている。特に自転車エルゴメーターを用いた有酸素運動は心リハにおける運動療法の中心的な役割を担っている。運動療法の実施にあたっては,心肺運動負荷試験(CPX)の評価に基づいた至適運動強度での運動処方が推奨されている。しかし,その実施には高価な機器を必要とするため,すべての施設で実施できる評価手段ではない。また患者に運動負荷をかけるため医師の立ち合いが必要とされ,全症例に実施することは困難である。一方,心臓超音波(心エコー)検査,足関節上腕血圧比(ABI)検査および頸部血管超音波(頸部エコー)検査は,非侵襲的に心機能および動脈血管機能の評価を全症例に対して実施可能である。今回,心疾患患者を対象にCPXを用いずに至適運動強度を推定することを目的に心エコー検査,ABI検査および頸部エコー検査による評価と至適運動強度の関係を検討した。
【方法】対象は当院心リハに参加した心疾患患者のうち,CPXと心エコー検査,ABI検査および頸部エコー検査を実施した洞調律の21名(男性18名,女性3名,平均年齢64.6±9.5歳)とした。CPXは,自転車エルゴメーターStrength Ergo8(FUKUDADENSHI)および呼気ガス分析機器Oxycon Pro(GAEGER)を使用し,10wattで4分間のwarming up施行後,1分ごとに10wattずつ負荷を増大させ,嫌気性代謝閾値(AT)をV-slope法より求めた。至適運動強度(EX watt)は,負荷に対する生体反応の遅れが存在するためATの1分前のwatt数と定義した。心エコー検査および頸部エコー検査は,Vivid 7 Pro(GEヘルスケアジャパン)を用いた。心エコー検査では,左室駆出分画(LVEF),拡張早期波の最高速度(E),僧帽弁輪移動速度(e’)を測定し,E/e’を算出した。頸部エコー検査では,総頸動脈,頸動脈球部,内頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)をそれぞれ測定し,最も厚い部分をmaxIMTとした。ABI検査は,BP-203RPEII(コーリンメディカルテクノロジー)を用いて,四肢の血圧を同時に測定し,足関節収縮期血圧を上腕収縮期血圧で除してABIを算出した。次に,EX wattを従属変数とし,心エコー検査,ABI検査および頸部エコー検査の評価指標を独立変数として重回帰分析を行った。統計解析はSPSS statistics 22(IBM)を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】EX wattはE/e’と有意な負の相関(r=-0.51,p=0.02),ABIと有意な正の相関(r=0.67,p<0.01)を認めたが,LVEFおよびmaxIMT(r=-0.42,p=0.06)と有意な相関を認めなかった。重回帰式では,EX watt=-2.68-0.86×E/e’+41.67×ABI(調整済みR2=0.585)であり,E/e’とABIの間に多重共線性は認められなかった。
【考察】EX wattの独立決定因子は,E/e’とABIであった。E/e’は左室拡張能障害,LVEFは左室収縮能障害の指標とされている。左室拡張能障害は,左室収縮能障害よりも運動耐用能の低下に関与するとの報告がある。左室拡張能障害によって,左房圧上昇,肺静脈圧上昇を伴い肺循環でのうっ滞を引き起こし,体動時の息苦しさや運動耐用能低下が生じる。一方,ABIおよびmaxIMTは,動脈硬化の指標とされている。動脈硬化は,運動時の血管拡張能低下または動脈狭窄による体循環および冠循環への血流量の減少をもたらす。血流量の減少は,下肢骨格筋への酸素供給量やエネルギー供給量を減少させることとなり運動耐用能低下をもたらす。今回,EX wattの推定において,下肢骨格筋への血流量と直接関連するABIが,脳血流量と関連するmaxIMTより有用であったと思われる。
本研究の結果,肺循環および体循環と関連するE/e’およびABIによって,至適運動強度を推定できる可能性が示唆された。今後は下肢骨格筋の機能評価を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】高価な機器を必要とせず,また患者に運動負荷をかけずに至適運動強度を推定することは,多くの心疾患患者に対して安全で効果的な運動処方が可能となり,QOL向上および予後改善に寄与すると考える。
【方法】対象は当院心リハに参加した心疾患患者のうち,CPXと心エコー検査,ABI検査および頸部エコー検査を実施した洞調律の21名(男性18名,女性3名,平均年齢64.6±9.5歳)とした。CPXは,自転車エルゴメーターStrength Ergo8(FUKUDADENSHI)および呼気ガス分析機器Oxycon Pro(GAEGER)を使用し,10wattで4分間のwarming up施行後,1分ごとに10wattずつ負荷を増大させ,嫌気性代謝閾値(AT)をV-slope法より求めた。至適運動強度(EX watt)は,負荷に対する生体反応の遅れが存在するためATの1分前のwatt数と定義した。心エコー検査および頸部エコー検査は,Vivid 7 Pro(GEヘルスケアジャパン)を用いた。心エコー検査では,左室駆出分画(LVEF),拡張早期波の最高速度(E),僧帽弁輪移動速度(e’)を測定し,E/e’を算出した。頸部エコー検査では,総頸動脈,頸動脈球部,内頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)をそれぞれ測定し,最も厚い部分をmaxIMTとした。ABI検査は,BP-203RPEII(コーリンメディカルテクノロジー)を用いて,四肢の血圧を同時に測定し,足関節収縮期血圧を上腕収縮期血圧で除してABIを算出した。次に,EX wattを従属変数とし,心エコー検査,ABI検査および頸部エコー検査の評価指標を独立変数として重回帰分析を行った。統計解析はSPSS statistics 22(IBM)を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】EX wattはE/e’と有意な負の相関(r=-0.51,p=0.02),ABIと有意な正の相関(r=0.67,p<0.01)を認めたが,LVEFおよびmaxIMT(r=-0.42,p=0.06)と有意な相関を認めなかった。重回帰式では,EX watt=-2.68-0.86×E/e’+41.67×ABI(調整済みR2=0.585)であり,E/e’とABIの間に多重共線性は認められなかった。
【考察】EX wattの独立決定因子は,E/e’とABIであった。E/e’は左室拡張能障害,LVEFは左室収縮能障害の指標とされている。左室拡張能障害は,左室収縮能障害よりも運動耐用能の低下に関与するとの報告がある。左室拡張能障害によって,左房圧上昇,肺静脈圧上昇を伴い肺循環でのうっ滞を引き起こし,体動時の息苦しさや運動耐用能低下が生じる。一方,ABIおよびmaxIMTは,動脈硬化の指標とされている。動脈硬化は,運動時の血管拡張能低下または動脈狭窄による体循環および冠循環への血流量の減少をもたらす。血流量の減少は,下肢骨格筋への酸素供給量やエネルギー供給量を減少させることとなり運動耐用能低下をもたらす。今回,EX wattの推定において,下肢骨格筋への血流量と直接関連するABIが,脳血流量と関連するmaxIMTより有用であったと思われる。
本研究の結果,肺循環および体循環と関連するE/e’およびABIによって,至適運動強度を推定できる可能性が示唆された。今後は下肢骨格筋の機能評価を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】高価な機器を必要とせず,また患者に運動負荷をかけずに至適運動強度を推定することは,多くの心疾患患者に対して安全で効果的な運動処方が可能となり,QOL向上および予後改善に寄与すると考える。