第50回日本理学療法学術大会

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Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0747] 血液透析患者における栄養指標と移動動作の自覚的困難感との関連について

柿原稔永1, 三村真士1, 南田義孝1, 片岡弘明2 (1.医療法人財団博仁会キナシ大林病院, 2.KKR高松病院リハビリテーションセンター)

Keywords:血液透析, 移動動作, サルコペニア

【目的】
リハビリテーションを展開する上で,効率的に機能回復を得るためには,患者の栄養状態を把握し適切な運動療法を行うことが重要である。栄養状態が低下することでサルコぺニアが生じ,活動量の低下を招き日常生活動作が制限されることが予想される。特に血液透析(以下:HD)患者は,食事制限での栄養素の不足や食欲不振,透析液への栄養素の喪失等による栄養障害や尿毒症毒素による代謝障害をきたし,サルコぺニアを呈する可能性が高いと考える。HD患者は外来通院にて治療を継続する上で,移動動作能力の維持が最低限必要であるが,多くの患者で歩行は自立しているものの,移動動作に困難感を訴える者が多い。そこで今回,HD患者の生化学的データからみた栄養指標と移動動作の自覚的困難感の関連性について検討を行った。
【方法】
対象は当院外来HD患者27名(男性13名,女性14名)とした。平均年齢は64.3±8.4歳,平均身長155.5±9.5cm,平均体重49.7±8.3kg,平均BMI 20.3±2.2,平均HD期間19.5±9.6年であった。栄養指標としては,クレアチニン(以下:Cr)値,尿素窒素(以下:BUN)値に加え,血清アルブミン値,血清総コレステロール値および末梢血総リンパ球数の測定値を指標とする総合的栄養評価Controling Nutritional Status(以下:CONUT)法を用いた。移動動作自覚的困難感については基本動作・歩行動作・階段昇降の3因子12項目から構成されるHD患者移動動作表のスコアを使用した。測定日はいずれもHD実施日とした。統計学的解析は,生化学的データ・CONUTスコアと移動動作スコアとのそれぞれの関連性を検討するためSpearmanの順位相関係数を用いた。統計解析ソフトはIBM SPSS Statics16.0を使用し有意水準は5%未満に設定した。
【結果】
HD患者移動動作スコアと相関を認めたものは,Cr値(r=0.484,p=0.011)のみであった。BUN値(r=0.149,p=0.459),血清アルブミン値(r=-0.005,p=0.979),血清総コレステロール値(r=0.138,p=0.493),末梢血総リンパ球数(r=-0.163,p=0.417),CONUTスコア(r=0.027,p=0.892)では相関は認められなかった。
【考察】
HD患者の栄養指標とHD患者移動動作スコアに関してはCr値のみに相関が認められた。Crはクレアチンの前駆物質で,その尿中排泄量は体内総クレアチニン量と高い相関があるとされている。またクレアチンは,総量の96~98%が筋肉に存在するため筋肉量を推定することが可能である。そのため筋肉量の低下が動作能力の制限に繋がり,移動動作の自覚的困難感を増加させたのではないかと推測された。しかし,総合的栄養指標であるCONUTスコアとHD患者移動動作スコアの相関は認められなかった。この要因としてHD患者は慢性腎不全が原疾患としてあるため,悪液質による影響があげられる。そのため移動動作は自立していても,倦怠感や筋力低下が生じ自覚的に困難感を有しているのではないかと考えた。これらのことから,HD患者における移動動作の自覚的困難感には,サルコぺニアの要因である筋肉量の低下や悪液質の関与が示唆され,HD患者の生化学的データから自覚的困難感を予測するためには,筋肉量の指標となるCr値の把握が有用ではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
生化学的データより簡易的に移動動作の自覚的困難感を把握することで,理学療法を展開する上で運動療法時のリスク管理としても有用であると考える。また検査結果の変動により,運動負荷の調節も可能となるのではないかと考えている。