[P2-B-0469] 運動イメージによって誘導される一次運動野興奮性の側性化
キーワード:イメージ, 経頭蓋磁気刺激, 左右差
【はじめに,目的】
運動を実際に行わなくても,運動をイメージするだけで一次運動野が興奮することが報告されている。近年,この運動イメージは脳卒中片麻痺者のリハビリテーションとして用いられ,その効果が示されている。しかし,利き手の運動をイメージする場合と非利き手の運動をイメージする場合に,左右一次運動野の興奮性が異なるか否かについて一致した見解は得られていない。今回,利き手動作である箸動作を課題とし,利き手および非利き手の運動イメージ時の左右一次運動野興奮性の違いを明らかにすることとした。
【方法】
被験者は右利き健常成人男性9名(平均年齢:24.9±3.7才)とした。被験者は両手を前腕回内位で机上に置き安静保持した。イメージ課題は,右手で箸を用いて食材をつまむところをイメージする課題(右手イメージ課題)と左手で箸を用いて食材をつまむところをイメージする課題(左手イメージ課題)の2課題とした。実験に先立ち,第三者が右手(左手)で箸を用いてメトロノームの音に合わせて食材をつまんでいる映像を視聴させた。その後,提示された映像と同様の箸動作を被験者自身が行っているところをイメージするよう練習を行わせた。十分な練習を行い,被験者が箸動作をイメージできるようになった時点で実験を開始した。左右一次運動野の興奮性の指標には経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用い,第一背側骨間筋(FDI)から表面筋電図を記録した。TMSのための刺激装置にはMagStim2002と8の字コイルを用い,安静時運動閾値の120%の強度で刺激を行った。各被験者とも,右手および左手イメージ課題を行っている際中に,右または左一次運動野に対するTMSを各10回行った。左右イメージ課題の順序および左右TMSの順序はランダムとした。各MEP振幅値は安静時MEP振幅値に対する比を算出して解析に用いた。また,各イメージ課題終了後には,イメージ鮮明度をVisual Analog Scale(VAS)にて測定した。統計学的解析は,イメージ側(左右手イメージ)とMEP導出側(左右FDI)の二つを要因とした分散分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
左運動野へのTMSによる右FDIのMEP振幅の安静時比(平均値±標準偏差)は,右手イメージ時には1.79±1.35,左手イメージ時には1.82±1.05であった。この時のVASの平均値は,右手イメージ時が7.2±1.3,左手イメージ時が5.5±1.6であった。一方,右運動野へのTMSによる左FDIのMEP振幅の安静時比は,右手イメージ時には1.07±0.99,左手イメージ時には0.97±0.46であった。この時のVASの平均値は,右手イメージ時が6.6±2.0,左手イメージ時が5.7±1.8であった。MEP振幅に対する分散分析の結果,MEP導出側とイメージ側の要因に交互作用は認められず,MEP導出側の要因にのみ主効果が認められ,右FDIのMEPのほうが左FDIのMEPよりも増加が認められた。一方,VAS得点に対する分散分析の結果では,MEP導出側とイメージ側の要因に交互作用は認められず,イメージ側の要因にのみ主効果が認められ,右手イメージにおいてVAS得点が高かった。
【考察】
利き手動作である箸動作をイメージ課題とした場合,右手イメージ時,左手イメージ時ともに左FDIのMEPよりも右FDIのMEPが増加していたことから,いずれのイメージ時においても右半球運動野よりも左半球運動野の興奮性が増加する事が明らかとなった。このことは,Stinerら(2006)が述べている運動イメージにおける左半球優位性を支持する結果であった。運動イメージ時の運動野興奮性は運動イメージの鮮明度が高いほど増加することが報告されている。しかし,左手による箸動作のイメージ時にはイメージの鮮明度は低いにも関わらず,左運動野の興奮性は増加していた。このことは,運動イメージから運動出力に至る神経回路に左大脳半球優位の側性化が存在していることを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージにおける大脳半球の側性化を明らかにすることは,脳卒中によって片麻痺を有した患者に対する運動イメージを用いた新たな理学療法戦略を開発する上で有用である。本研究によって得られた知見によって,従来の運動イメージを用いた理学療法を,大脳半球の側性化という観点からより詳細に検討することが可能になる。
運動を実際に行わなくても,運動をイメージするだけで一次運動野が興奮することが報告されている。近年,この運動イメージは脳卒中片麻痺者のリハビリテーションとして用いられ,その効果が示されている。しかし,利き手の運動をイメージする場合と非利き手の運動をイメージする場合に,左右一次運動野の興奮性が異なるか否かについて一致した見解は得られていない。今回,利き手動作である箸動作を課題とし,利き手および非利き手の運動イメージ時の左右一次運動野興奮性の違いを明らかにすることとした。
【方法】
被験者は右利き健常成人男性9名(平均年齢:24.9±3.7才)とした。被験者は両手を前腕回内位で机上に置き安静保持した。イメージ課題は,右手で箸を用いて食材をつまむところをイメージする課題(右手イメージ課題)と左手で箸を用いて食材をつまむところをイメージする課題(左手イメージ課題)の2課題とした。実験に先立ち,第三者が右手(左手)で箸を用いてメトロノームの音に合わせて食材をつまんでいる映像を視聴させた。その後,提示された映像と同様の箸動作を被験者自身が行っているところをイメージするよう練習を行わせた。十分な練習を行い,被験者が箸動作をイメージできるようになった時点で実験を開始した。左右一次運動野の興奮性の指標には経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用い,第一背側骨間筋(FDI)から表面筋電図を記録した。TMSのための刺激装置にはMagStim2002と8の字コイルを用い,安静時運動閾値の120%の強度で刺激を行った。各被験者とも,右手および左手イメージ課題を行っている際中に,右または左一次運動野に対するTMSを各10回行った。左右イメージ課題の順序および左右TMSの順序はランダムとした。各MEP振幅値は安静時MEP振幅値に対する比を算出して解析に用いた。また,各イメージ課題終了後には,イメージ鮮明度をVisual Analog Scale(VAS)にて測定した。統計学的解析は,イメージ側(左右手イメージ)とMEP導出側(左右FDI)の二つを要因とした分散分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
左運動野へのTMSによる右FDIのMEP振幅の安静時比(平均値±標準偏差)は,右手イメージ時には1.79±1.35,左手イメージ時には1.82±1.05であった。この時のVASの平均値は,右手イメージ時が7.2±1.3,左手イメージ時が5.5±1.6であった。一方,右運動野へのTMSによる左FDIのMEP振幅の安静時比は,右手イメージ時には1.07±0.99,左手イメージ時には0.97±0.46であった。この時のVASの平均値は,右手イメージ時が6.6±2.0,左手イメージ時が5.7±1.8であった。MEP振幅に対する分散分析の結果,MEP導出側とイメージ側の要因に交互作用は認められず,MEP導出側の要因にのみ主効果が認められ,右FDIのMEPのほうが左FDIのMEPよりも増加が認められた。一方,VAS得点に対する分散分析の結果では,MEP導出側とイメージ側の要因に交互作用は認められず,イメージ側の要因にのみ主効果が認められ,右手イメージにおいてVAS得点が高かった。
【考察】
利き手動作である箸動作をイメージ課題とした場合,右手イメージ時,左手イメージ時ともに左FDIのMEPよりも右FDIのMEPが増加していたことから,いずれのイメージ時においても右半球運動野よりも左半球運動野の興奮性が増加する事が明らかとなった。このことは,Stinerら(2006)が述べている運動イメージにおける左半球優位性を支持する結果であった。運動イメージ時の運動野興奮性は運動イメージの鮮明度が高いほど増加することが報告されている。しかし,左手による箸動作のイメージ時にはイメージの鮮明度は低いにも関わらず,左運動野の興奮性は増加していた。このことは,運動イメージから運動出力に至る神経回路に左大脳半球優位の側性化が存在していることを示唆している。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージにおける大脳半球の側性化を明らかにすることは,脳卒中によって片麻痺を有した患者に対する運動イメージを用いた新たな理学療法戦略を開発する上で有用である。本研究によって得られた知見によって,従来の運動イメージを用いた理学療法を,大脳半球の側性化という観点からより詳細に検討することが可能になる。