[P2-B-0482] Mirror Therapy運動学習における一人称的運動イメージ生成の効果
~下肢巧緻動作を用いて~
Keywords:Mirror Therapy, 運動学習, 一人称的運動イメージ
【はじめに,目的】
運動イメージ(Motor Imagery:以下MI)の形成が,中枢神経障害後の運動機能回復に重要な役割を果たしている。MIには,一人称的MIと三人称的MIがあり,運動治療や運動学習には,前者の利用が重要とされている。
一人称的MIを生成するための補助手段としてRamachandranらが最初に紹介した鏡治療(Mirror Therapy:以下MT)や,一人称視点での映像を利用するものがある。MTは鏡による視覚的な運動錯覚入力で一人称的MIの生成に関与していることが示されている。先行研究では健常者に対し,書字課題や手の巧緻動作を使用しているものや片麻痺症例に対して足関節の背屈角度変化や,段差を乗り越えるものがある。しかし,健常者に対し下肢巧緻動作でのMTを用いたものはなく,さらにビデオ映像での一人称的MIの比較はない。
そこで本研究では,MTと一人称的ビデオ映像によるMIにおいて,非利き足の下肢巧緻動作時間の短縮効果を観察した。さらに,MTと一人称ビデオ映像において一人称的MI生成に差があるのか検討した。
【方法】
対象は医学的問題のない,本学に在籍する健常大学生30名(男性18名,女性12名)とし,平均年齢は21.2±1.0歳であった。被験者は全員右利き(利き足はボールを蹴る方)とした。A群・MT介入あり,B群・鏡像のビデオ映像,C群・介入なしの各群10名で行った。
先行研究では,MI能力を評価する手段として心的時間測定が知られている。心的時間測定とは,ある課題を運動実行なしに心的にイメージし,それに要した時間を測定するものである。本研究でもこれを利用した。
実験に使用するスポンジ(梱包材に使用されている)は,縦1.5cm・横4cm・高さ1.5cmの円柱型である。これをBOX内に敷き詰められた石の上に置き,それを足趾の屈曲動作でBOXの前方につまみ出してもらった。
測定にはデジタル式ストップウォッチを使用し,100分の1秒まで記録した。実際の下肢巧緻動作時間の測定は,足先が石上に静止した状態から開始し,最後にスポンジを離すまでを終了とした。心的イメージ時間の測定は,被験者自身でストップウォッチを操作し,開始から終了までを測定した。測定回数は,治療前後それぞれ1回ずつとした。
A群は,鏡を被験者の両下肢正中矢状面上に鏡を設置し,右足の鏡像が被験者から見えるようにした。右足の鏡像が左足の膝関節より遠位の部分と重なって知覚できるように位置調節した。この時,被験者から右足が見えないようにした。実験者は,被験者に鏡を注視するように指示し,右足での下肢巧緻動作練習を行わせた。その際,鏡背面での左足の運動は全く行わせない。この施行を,5分2セットで合計10分行い,その後測定した。インターバールは1分間ずつとした。
B群は,あらかじめ撮影していた被験者の右足鏡像のビデオ映像を正面に置きA群と同じ時間で施行した。
C群は,最初の測定終了後,A・B群と同じ時間にするため,12分間静止座位で,その後再び測定を行った。
統計処理にはエクセル統計を使用し,群内の前後の差に有意差があるかを対応のあるt検定で,群間の差に関係があるかを重複測定―分散分析法で,どちらも危険率5%未満で統計処理を行った。
【結果】
対応のあるt検定では,MT,ビデオ映像での実行・イメージ時間は有意に減少した。MT・ビデオ映像,実行・イメージでの群間比較はどちらも有意差はなかったが,平均値としてMT課題の秒数が減少した。
【考察】
非利き足での運動反復練習を全く行わず,10分間の鏡治療やビデオ治療を行ったところ,非利き足での下肢巧緻動作時間が短縮した。これは鏡やビデオ映像による視覚的な運動錯覚入力が,一人称的MIの生成に関与していると考える。この運動錯覚感覚そのものが運動イメージの生成に重要であり,課題実行に一致した運動感覚がリアルにイメージされていると考える。
またMTとビデオ映像での短縮効果での有意差は実行時間,イメージ時間ともになかったが,MT課題の方が平均値として減少傾向にあった。これは鏡を介して入ってくる視覚情報と,ビデオ映像での視覚情報との実際の位置関係に相違があること。ビデオ映像での視点が被験者の実際の視点とは異なること。MTでは利き足を実際に運動させているため,ビデオ映像よりもリアルな運動錯覚が生じたためだと考える。これは,運動肢からの体性感覚入力により,非運動肢側の1次運動野を賦活していると推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果からMT・鏡像ビデオは上肢機能だけではなく,下肢の機能障害においても反復運動が困難な場合に応用可能であると考える
運動イメージ(Motor Imagery:以下MI)の形成が,中枢神経障害後の運動機能回復に重要な役割を果たしている。MIには,一人称的MIと三人称的MIがあり,運動治療や運動学習には,前者の利用が重要とされている。
一人称的MIを生成するための補助手段としてRamachandranらが最初に紹介した鏡治療(Mirror Therapy:以下MT)や,一人称視点での映像を利用するものがある。MTは鏡による視覚的な運動錯覚入力で一人称的MIの生成に関与していることが示されている。先行研究では健常者に対し,書字課題や手の巧緻動作を使用しているものや片麻痺症例に対して足関節の背屈角度変化や,段差を乗り越えるものがある。しかし,健常者に対し下肢巧緻動作でのMTを用いたものはなく,さらにビデオ映像での一人称的MIの比較はない。
そこで本研究では,MTと一人称的ビデオ映像によるMIにおいて,非利き足の下肢巧緻動作時間の短縮効果を観察した。さらに,MTと一人称ビデオ映像において一人称的MI生成に差があるのか検討した。
【方法】
対象は医学的問題のない,本学に在籍する健常大学生30名(男性18名,女性12名)とし,平均年齢は21.2±1.0歳であった。被験者は全員右利き(利き足はボールを蹴る方)とした。A群・MT介入あり,B群・鏡像のビデオ映像,C群・介入なしの各群10名で行った。
先行研究では,MI能力を評価する手段として心的時間測定が知られている。心的時間測定とは,ある課題を運動実行なしに心的にイメージし,それに要した時間を測定するものである。本研究でもこれを利用した。
実験に使用するスポンジ(梱包材に使用されている)は,縦1.5cm・横4cm・高さ1.5cmの円柱型である。これをBOX内に敷き詰められた石の上に置き,それを足趾の屈曲動作でBOXの前方につまみ出してもらった。
測定にはデジタル式ストップウォッチを使用し,100分の1秒まで記録した。実際の下肢巧緻動作時間の測定は,足先が石上に静止した状態から開始し,最後にスポンジを離すまでを終了とした。心的イメージ時間の測定は,被験者自身でストップウォッチを操作し,開始から終了までを測定した。測定回数は,治療前後それぞれ1回ずつとした。
A群は,鏡を被験者の両下肢正中矢状面上に鏡を設置し,右足の鏡像が被験者から見えるようにした。右足の鏡像が左足の膝関節より遠位の部分と重なって知覚できるように位置調節した。この時,被験者から右足が見えないようにした。実験者は,被験者に鏡を注視するように指示し,右足での下肢巧緻動作練習を行わせた。その際,鏡背面での左足の運動は全く行わせない。この施行を,5分2セットで合計10分行い,その後測定した。インターバールは1分間ずつとした。
B群は,あらかじめ撮影していた被験者の右足鏡像のビデオ映像を正面に置きA群と同じ時間で施行した。
C群は,最初の測定終了後,A・B群と同じ時間にするため,12分間静止座位で,その後再び測定を行った。
統計処理にはエクセル統計を使用し,群内の前後の差に有意差があるかを対応のあるt検定で,群間の差に関係があるかを重複測定―分散分析法で,どちらも危険率5%未満で統計処理を行った。
【結果】
対応のあるt検定では,MT,ビデオ映像での実行・イメージ時間は有意に減少した。MT・ビデオ映像,実行・イメージでの群間比較はどちらも有意差はなかったが,平均値としてMT課題の秒数が減少した。
【考察】
非利き足での運動反復練習を全く行わず,10分間の鏡治療やビデオ治療を行ったところ,非利き足での下肢巧緻動作時間が短縮した。これは鏡やビデオ映像による視覚的な運動錯覚入力が,一人称的MIの生成に関与していると考える。この運動錯覚感覚そのものが運動イメージの生成に重要であり,課題実行に一致した運動感覚がリアルにイメージされていると考える。
またMTとビデオ映像での短縮効果での有意差は実行時間,イメージ時間ともになかったが,MT課題の方が平均値として減少傾向にあった。これは鏡を介して入ってくる視覚情報と,ビデオ映像での視覚情報との実際の位置関係に相違があること。ビデオ映像での視点が被験者の実際の視点とは異なること。MTでは利き足を実際に運動させているため,ビデオ映像よりもリアルな運動錯覚が生じたためだと考える。これは,運動肢からの体性感覚入力により,非運動肢側の1次運動野を賦活していると推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果からMT・鏡像ビデオは上肢機能だけではなく,下肢の機能障害においても反復運動が困難な場合に応用可能であると考える