第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習4

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0501] 若年者と高齢者の起立動作における筋シナジーは伸展相移行時の床反力方向の違いによって分類される

塙大樹1,2, 丸毛達也2,3, 村田佳太2,4, 国分貴徳2, 藤本鎮也5, 中村高仁4, 武田尊徳3, 西原賢2, 星文彦2 (1.社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院, 2.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科, 3.医療法人社団愛友会上尾中央総合病院, 4.医療法人敬愛会リハビリテーション天草病院, 5.人間総合科学大学保健医療学部)

キーワード:共同運動, 表面筋電図, 起立動作

【はじめに,目的】
理学療法において協調性は一般的に挙げられる評価項目だが,具体的な検査尺度が少なく,多関節運動の定型性を視覚的に評価(Brunnstrom stageや踵膝試験など)したり,動作時の運動学的特徴を列挙することが多い。この検査が特に頻繁に行われるのは,多関節に障害が及ぶ脳血管疾患や脊髄小脳変性症のような中枢神経疾患であり,患者が呈する異常な関節運動の定型性を指して共同運動障害(dyssynergia,asynergia)と呼ぶ。しかし,中枢神経系が直接支配するのは関節ではなくこれをまたぐ筋であるため,評価に際しては筋活動の定型性(muscle synergy:筋シナジー)を診る必要がある。動作時の筋活動に関する研究では,伝統的に個別筋の活動を試行間で加算平均してその特徴を述べてきたが,これでは各試行における筋間の活動比や同期性がわからず,更に同期活動の結果起こる力や運動との関係も不明確である。近年,この複数筋活動の時間相関性を扱うために行列因子分解手法が用いられてきており,歩行や外乱応答について適用した研究は散見される。しかし,これらに先立つ抗重力動作としての起立動作について扱った研究はほとんど無く,特に筋シナジーと実際の起立動作の力学的特徴を関連付ける研究は行われていない。
【方法】
対象は健常男性6名,うち若年者2名(22・30歳)・高齢者4名(平均77.3±4.2歳)とした。実験装置として生体アンプ(NORAXON社,1000Hz)と三次元動作解析装置(VICON社,100Hz)および床反力計(KISTLER社,1000Hz)を用い,表面筋電図波形・関節運動・床反力を測定した。表面筋電図波形の導出筋は8筋(前脛骨筋・ヒラメ筋・腓腹筋・外側広筋・大腿直筋・半腱様筋・大内転筋・大殿筋)とし,関節運動の測定にはPlug-in Gaitモデルを使用した。
被験者は大腿が床面と平行,かつ足関節背屈10°位で台上に腰掛けた後,快適速度での起立動作を10回行った。肩峰の位置変化から起立動作時間を同定し,平均起立動作時間からの偏差が大きい3試行を分析から除外した。表面筋電図波形は各試行における起立動作時間を100%として時間正規化を行った上で整流平滑化,更に活動量の正規化を行った。そして,処理済みの表面筋電図波形を被験者ごとに全試行分並べ,非負値行列因子分解を行った。これにより抽出された筋シナジーについて,被験者間でPearsonの積率相関係数を算出した。更に,伸展相移行時の床反力方向(足関節最大背屈時点での鉛直線と床反力ベクトルのなす角)を評価関数としてK平均法によりクラスター分析を行い,各クラスターに属する被験者間の筋シナジーの相関性についてもPearsonの積率相関係数を算出し検証した。
【結果】
全被験者の起立動作から2つの筋シナジー(シナジー1・2)が抽出された。シナジー1は起立動作中盤に働き,前脛骨筋に強い活動を認めたが,その他筋との同期活動性にはばらつきを認めた(相関係数は全被験者平均0.47±0.22)。シナジー2は起立動作後半に働き,共通してヒラメ筋と半腱様筋・大殿筋に強い活動を認めた(相関係数は全被験者平均0.67±0.18)。また,クラスター分析では4クラスターに分類され,うち2つ(クラスター1・2)に2名づつ属した。クラスター1は若年者と高齢者で構成され,クラスター2は両者とも高齢者であった。床反力方向はクラスター1で平均6.17°±1.06,クラスター2で平均2.21°±0.63であり,クラスター2でより床面に対して垂直であった(p<0.05)。クラスター間のシナジー1の違いについて,クラスター1ではヒラメ筋以外の全ての筋に強い同期活動を認めたのに対し(被験者間の相関係数0.80),クラスター2では前脛骨筋と外側広筋・大腿直筋のみに強い同期活動を認めた(被験者間の相関係数0.89)。
【考察】
本結果から,起立動作において若年者・高齢者に一部共通した筋シナジーの存在が示唆された。起立動作中盤に働くシナジーについては被験者間で違いが見られたが,力学的な指標によって分類が可能であり,筋シナジーと力学的特徴との関係性が見出された。前脛骨筋と外側広筋・大腿直筋の同期性が強いクラスター2のシナジー1において,床反力方向が床面に対してより垂直であることから,被験者は重心をより後方に位置したまま伸展相へ移行したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
健常成人の起立動作に共通する筋シナジーが抽出され,これと結果起こる力学的特徴との関連が見出されたことで,共同運動障害を有する患者の起立動作に対する評価・治療の発展に貢献出来ると考える。