第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

肩関節・徒手療法

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0616] 腱板断裂症例における全身麻酔下可動域,回旋筋力および骨頭上方化とShoulder36の関連性

可児拓也1, 丸山翔太1, 上野栄和2, 小林巧3 (1.医療法人社団履信会さっぽろ厚別通整形外科リハビリ室, 2.医療法人社団履信会さっぽろ下手稲通整形外科整形外科, 3.北海道千歳リハビリテーション学院)

キーワード:Shoulder36, 腱板断裂, 全身麻酔下可動域

【はじめに,目的】
近年,客観的評価のみならず,患者立脚評価法といわれるQOLを考慮した主観的評価が重要視されている。患者立脚肩関節評価法Shoulder36 V.1.3(以下Sh36)は,肩関節疾患を対象としたQOL評価に使用され,可動域,筋力,疼痛,健康感,日常生活機能,スポーツ能力の6領域により構成されている。先行研究では,腱板断裂後のSh36各領域と肩関節可動域との関連性を調査した報告があるが,腱板損傷後の疼痛による筋緊張の増加が可動域に影響することが推察されるため,その影響を除いた肩関節可動域がQOLに与える影響について検討することは制限因子を特定する上でも重要である。また,腱板機能を示す回旋筋力および骨頭の上方化もQOLに影響することが推察されるが,いまだ一定の見解を得ていない。本研究の目的は,腱板断裂患者における全身麻酔下可動域,回旋筋力,骨頭の上方化に着目し,Sh36各領域間の関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は2014年5月~10月に当院で,鏡視下腱板修復術(以下ARCR)予定の腱板断裂患者12名12肩(男性7名,女性5名,平均年齢63.7歳)とした。可動域の測定は,全身麻酔下にて術直前に術者が,肩関節屈曲,外転,下垂位外旋(以下1st外旋),90°外転位外旋(以下2nd外旋),90°屈曲位外旋(以下3rd外旋),90°外転位内旋(以下2nd内旋),90°屈曲位内旋(以下3rd内旋)を計測した。筋力は,椅座位,上腕を体幹にベルトで固定し,肩関節外転0°,肘関節屈曲90°,前腕中間位を測定肢位とし,ハンドヘルドダイナモメーター(HOGGAN社製MicroFET2)を用い,外旋および内旋等尺性運動を2回行わせ,平均値を算出した。骨頭上方化は,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Noblus)を用いて,椅座位,肩関節回旋中間位で肩関節外転0°および自動外転45°にて肩峰骨頭間距離(以下AHD)を測定した。また,主観的評価として,Sh36各領域(疼痛,可動域,筋力,健康感,日常生活機能,スポーツ能力)の重症度得点有効回答の平均値を算出した。Sh36各領域の得点と客観的評価との関連性についてSpearmanの相関係数を使用し,危険率5%未満を有意水準として統計学的に検証した。統計学的解析は解析ソフトR2.8.1を使用した。
【結果】
Sh36の「疼痛」と2nd内旋(r=0.64)および3rd内旋(r=0.64),Sh36の「可動域」と内旋筋力(r=0.58),Sh36の「筋力」と2nd内旋(r=0.67)および3rd内旋(r=0.65),Sh36の「日常生活機能」と屈曲(r=0.58),2nd内旋(r=0.62)および3rd内旋(r=0.66)にそれぞれ有意な相関関係を認めた(p<0.05)。Sh36の「健康感」,「スポーツ能力」と各評価間には有意な相関を認めなかった。また,Sh36各領域間とAHDには有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,Sh36「疼痛」「筋力」「日常生活機能」と関節可動域2nd・3rd内旋に中等度の相関を認めた。2nd・3rd内旋可動域は,肩甲上腕関節後下方組織の伸張性と関連し,挙上や外転運動中における上腕骨頭の肩峰下通過障害に影響を与える可能性がある。Sh36「疼痛」「筋力」「日常生活機能」の各項目には内旋動作が含まれていることから,これらの項目に内旋可動域が関連した可能性が推察される。Sh36「可動域」は,他動可動域との相関を認めなかった。中野ら(2012)や玉能ら(2013)の報告では,Sh36「可動域」は自動屈曲および外転可動域との相関を報告しているが,今回は筋収縮の影響を除いた可動域について検討していることからも,Sh36「可動域」は関節構成体そのものの制限を反映していない可能性がある。Sh36「健康感」「スポーツ能力」と各評価間には,相関を認めなかった。これらの項目は,健側上肢使用や両手動作など代償動作を獲得している可能性があり,客観的評価を反映しなかったと推察される。今後はARCR術後成績へ与える影響について調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
Sh36「筋力」「疼痛」「日常生活機能」と全身麻酔下における可動域2nd・3rd内旋との関連が示された。今回の結果より,関節包や靭帯に起因する後方組織短縮の改善に向けた介入が,腱板断裂症例におけるQOL向上につながる可能性があるため,今後更なる検討が必要である。