[P2-C-0538] Detrended Fluctuation Analysisを用いた片脚立位保持時の足圧中心データの変動解析
キーワード:Detrended Fluctuation Analysis, 片脚立位, 足圧中心
【はじめに,目的】
Detrended Fluctuation Analysis(以下,DFA)は時系列信号の変動の長時間相関の有無を解析する手法である。DFAで算出されるスケーリング指数α(以下,α)が,0<α<0.5の範囲であれば,信号は反持続性相関をもち,その後には過去の変動と逆向きの変動が起こる可能性が高くなる。α=0.5のとき,自己相関はなく信号はホワイトノイズである。0.5<α<1.0の範囲であれば,信号は持続性相関をもち,その後には過去の変動と同じ向きの変動が起きる可能性が高くなる。α=1.0のとき1/fゆらぎとなり,系は機能的状態(安定性と適応可能性)を示す。1.0<αでは,自己相関性はあるがα値の増大とともにフラクタル性は消失する。α=1.5のとき,信号はブラウンノイズである。近年,DFAを用いた安静立位保持中の足圧中心データのクロスオーバー現象が報告された。クロスオーバー現象とは,信号が持続性相関から反持続性相関(αが0.5以上から0.5未満)へ変化する現象であり,この変化点は境界点とよばれる。境界点が出現する時間はフィードバック遅れ時間といわれ,生理的なゆらぎを許容する「機能的遊び」を反映するとされている。本研究は特に左右方向の姿勢制御能力が要求される片脚立位保持に着目し,クロスオーバー現象の観察が姿勢制御能力の評価に有意義であるかを検討することを目的に行った。
【方法】
被験者は健常成人男性10人であった。課題動作には開眼片脚立位保持を採用した。計測はサンプリング周波数を200[Hz]としたグラビコーダG-620(アニマ社製)を用い,20秒間の片脚立位保持中の前後・左右方向の足圧中心(Center of pressure:以下,COP)の座標と移動速度データを算出した。得られた時系列データに対して,MATLAB 2014a(MathWorks社製)を用いてDFAを行った。DFAでは,まず全時間領域のαを算出した。比較のためにデータの順序を無作為化したサロゲートデータ(以下,サロゲート)を作成しαを算出した。クロスオーバー現象は,全時間領域のデータの近似曲線に傾き0.5の直線と接点が存在するかを確認した。接点が存在した場合,接点を境界点としてフィードバック遅れ時間を算出したのち,短時間領域と長時間領域に二分し,それぞれの領域のαを求めた。さらにそれぞれの領域でサロゲートを作成し,αを求めた。各時間領域のデータとサロゲートとの比較,およびフィードバック遅れ時間の比較には対応のあるt検定を実施した。統計学的解析にはDr. SPSS II for Windows 11.0.1 J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
COPの前後・左右方向の座標・速度データに関して,全時間領域では全項目でサロゲートと有意な差が認められた(前後;座標:1.50±0.05,速度:0.96±0.04,左右;座標:1.36±0.10,速度:0.90±0.07,いずれもp<0.01)。クロスオーバー現象は前後・左右方向ともに座標データでは認められず,速度データのみで認められた。速度データのフィーバック遅れ時間は,左右方向と比較して前後方向で有意に遅延していた。(p<0.01)。速度データの短時間・長時間領域の前後・左右方向データは,短時間領域の前後・左右方向,長時間領域の左右方向でサロゲートと有意な差が認められた(p<0.01)。
【考察】
COPに関し全時間領域のαが,速度データでは1/fゆらぎに近い値を示したが,座標データではブラウンノイズに近い値を示し,クロスオーバー現象が速度データでのみ確認されたことから,姿勢制御能力の推定には足圧中心の速度データの検討が妥当である可能性が示された。しかし,前後方向の長時間領域の速度データ信号はホワイトノイズと異なるとはいえず,前後方向では全被験者にクロスオーバー現象が認められなかった。さらにフィードバック遅れ時間が前後方向で遅延していたことから,片脚立位保持では左右方向を重視した姿勢制御戦略をとっていることが示され,これは前後方向と比較して左右方向に狭い足部のみの支持基底面内に身体質量中心を収めるために,COPの左右方向の速度を調節した結果が反映されていると推察され,姿勢制御能力の評価項目の一つとしてクロスオーバー現象の検討が有意義であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はDFAを用いて片脚立位保持中のCOPの座標と移動速度データのクロスオーバー現象を検証し,新たな姿勢制御能力の評価法による有益な知見を提供した点に意義がある。
Detrended Fluctuation Analysis(以下,DFA)は時系列信号の変動の長時間相関の有無を解析する手法である。DFAで算出されるスケーリング指数α(以下,α)が,0<α<0.5の範囲であれば,信号は反持続性相関をもち,その後には過去の変動と逆向きの変動が起こる可能性が高くなる。α=0.5のとき,自己相関はなく信号はホワイトノイズである。0.5<α<1.0の範囲であれば,信号は持続性相関をもち,その後には過去の変動と同じ向きの変動が起きる可能性が高くなる。α=1.0のとき1/fゆらぎとなり,系は機能的状態(安定性と適応可能性)を示す。1.0<αでは,自己相関性はあるがα値の増大とともにフラクタル性は消失する。α=1.5のとき,信号はブラウンノイズである。近年,DFAを用いた安静立位保持中の足圧中心データのクロスオーバー現象が報告された。クロスオーバー現象とは,信号が持続性相関から反持続性相関(αが0.5以上から0.5未満)へ変化する現象であり,この変化点は境界点とよばれる。境界点が出現する時間はフィードバック遅れ時間といわれ,生理的なゆらぎを許容する「機能的遊び」を反映するとされている。本研究は特に左右方向の姿勢制御能力が要求される片脚立位保持に着目し,クロスオーバー現象の観察が姿勢制御能力の評価に有意義であるかを検討することを目的に行った。
【方法】
被験者は健常成人男性10人であった。課題動作には開眼片脚立位保持を採用した。計測はサンプリング周波数を200[Hz]としたグラビコーダG-620(アニマ社製)を用い,20秒間の片脚立位保持中の前後・左右方向の足圧中心(Center of pressure:以下,COP)の座標と移動速度データを算出した。得られた時系列データに対して,MATLAB 2014a(MathWorks社製)を用いてDFAを行った。DFAでは,まず全時間領域のαを算出した。比較のためにデータの順序を無作為化したサロゲートデータ(以下,サロゲート)を作成しαを算出した。クロスオーバー現象は,全時間領域のデータの近似曲線に傾き0.5の直線と接点が存在するかを確認した。接点が存在した場合,接点を境界点としてフィードバック遅れ時間を算出したのち,短時間領域と長時間領域に二分し,それぞれの領域のαを求めた。さらにそれぞれの領域でサロゲートを作成し,αを求めた。各時間領域のデータとサロゲートとの比較,およびフィードバック遅れ時間の比較には対応のあるt検定を実施した。統計学的解析にはDr. SPSS II for Windows 11.0.1 J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
COPの前後・左右方向の座標・速度データに関して,全時間領域では全項目でサロゲートと有意な差が認められた(前後;座標:1.50±0.05,速度:0.96±0.04,左右;座標:1.36±0.10,速度:0.90±0.07,いずれもp<0.01)。クロスオーバー現象は前後・左右方向ともに座標データでは認められず,速度データのみで認められた。速度データのフィーバック遅れ時間は,左右方向と比較して前後方向で有意に遅延していた。(p<0.01)。速度データの短時間・長時間領域の前後・左右方向データは,短時間領域の前後・左右方向,長時間領域の左右方向でサロゲートと有意な差が認められた(p<0.01)。
【考察】
COPに関し全時間領域のαが,速度データでは1/fゆらぎに近い値を示したが,座標データではブラウンノイズに近い値を示し,クロスオーバー現象が速度データでのみ確認されたことから,姿勢制御能力の推定には足圧中心の速度データの検討が妥当である可能性が示された。しかし,前後方向の長時間領域の速度データ信号はホワイトノイズと異なるとはいえず,前後方向では全被験者にクロスオーバー現象が認められなかった。さらにフィードバック遅れ時間が前後方向で遅延していたことから,片脚立位保持では左右方向を重視した姿勢制御戦略をとっていることが示され,これは前後方向と比較して左右方向に狭い足部のみの支持基底面内に身体質量中心を収めるために,COPの左右方向の速度を調節した結果が反映されていると推察され,姿勢制御能力の評価項目の一つとしてクロスオーバー現象の検討が有意義であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はDFAを用いて片脚立位保持中のCOPの座標と移動速度データのクロスオーバー現象を検証し,新たな姿勢制御能力の評価法による有益な知見を提供した点に意義がある。