[P2-C-0565] 変形性膝関節症患者における舟状骨沈降度と歩行及び運動機能の関連性について
Keywords:変形性膝関節症, 舟状骨沈降度, 歩行分析
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(Osteoarthritis of the knee:膝OA)患者では下肢全体のアライメントの崩れによって動的立位バランが低下し,さらに股関節や足関節にまで痛みが生じることが原因となり健常高齢者よりも転倒しやすいことが報告されている。動的立位バランス維持に重要な足部機能に着目すると,Kellgren and Lawrence grade(KL分類)2~3の変形性膝関節症を呈する女性では後足部が回内傾向にあることや,足趾把持力が健常高齢者と比較して低下しているとの報告がある。また舟状骨沈降度(Navicular Dropping Test:NDT)が高値であることも知られている。NDTは足底接地時の内側縦アーチの低下を示し,臨床現場で用いられている指標ではあるが,膝OA患者の歩行状態や運動機能にどのように影響を与えているかは十分に明らかになっていない。本研究の目的は変形性膝関節症患者における舟状骨沈降度と歩行及び運動機能との関連性について調査することである。
【方法】
対象は鳥取大学医学部附属病院整形外科にて,人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)及び高位脛骨骨切り術(High Tibial Osteotomy:HTO)を予定し入院した患者20名のうち,(1)認知症を有する者(長谷川式23点未満及び臨床的症状を有する),(2)中枢性神経疾患や筋疾患などの合併既往歴があるもの,(3)反対側の膝関節の観血的治療を施しているもの,(4)歩行不可能であるものを除いた18名とした(年齢75.8±10.2歳,身長146.9±8.2cm,体重53.5±8.2kg,BMI 24.6±3.3kg/m2)。まず,自己記入式アンケートにて併存疾患,過去1年間の転倒歴,Visual analogue scale(VAS),膝関節症機能評価尺度(Japan Knee Osteoarthritis Measure:JKOM),転倒自己効力感(Modified Falls Efficacy Scale:MFES),老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale:GDS)を聴取した。身体機能テストは開眼片脚立位時間,Timed up and go test(TUG),膝関節伸展筋力,5m歩行時間を計測した。歩行分析は歩行分析装置Opto gait(Microgate社製)を用い,歩行速度,ステップ長,歩行周期における荷重応答期時間,立脚中期時間,立脚後期時間,遊脚前期時間を測定した。それぞれの周期は,一歩行周期時間で除した値を用いた。足部形態の計測には,舟状骨沈降度(Navicular Dropping Test:NDT),を用いた。NDTは非荷重位,荷重位それぞれで舟状骨結節から床面へ引いた垂線を計測し,その差を算出した。Peasonの積率相関分析にて各変数間の相関関係を分析した。
【結果】
対象者のKL分類はIIが2名,IIIが3名,IVが13名であり,全員が女性であった。大腿脛骨角(femorotibial angle:FTA)は190.5±8.8°であり,全員が膝関節内反変形を呈していた。対象者全員のNDT平均値は9.2±2.9mmであった。NDTと統計学上有意に相関があったものはVAS(r=-0.527,P=0.043)とMFES(r=-0.543,p=0.035),荷重応答期率(r=-0.604,p=0.022)であった。その他の因子については,有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究ではNDTが高値であるほど歩行周期に占める荷重応答期時間は低下した。このことから,膝OA患者においてNDTは高値になるほど足部は荷重位にて回内位を呈し,足部の剛性が低下し,足底接地までの時間を短縮させた可能性がある。また,NDTが高値となるほどVASは有意に低下し,転倒恐怖心は有意に向上した。膝OA患者ではNDTを大きくすることによって,荷重時に足部を回内させ,膝関節内反モーメントを軽減することで荷重時の痛みを軽減させていた可能性があるが,その反面,足部の剛性低下が動的立位バランスを低下させ,転倒恐怖心が強くなったのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
NDT高値はOA患者における動的立位バランス低下の要因である可能性があったことから,足底挿板療法やテーピング療法によってNDTに介入することで,本患者の歩行状態の改善や転倒恐怖心,疼痛を軽減させる可能性がある点で理学療法研究として意義があると考える。
変形性膝関節症(Osteoarthritis of the knee:膝OA)患者では下肢全体のアライメントの崩れによって動的立位バランが低下し,さらに股関節や足関節にまで痛みが生じることが原因となり健常高齢者よりも転倒しやすいことが報告されている。動的立位バランス維持に重要な足部機能に着目すると,Kellgren and Lawrence grade(KL分類)2~3の変形性膝関節症を呈する女性では後足部が回内傾向にあることや,足趾把持力が健常高齢者と比較して低下しているとの報告がある。また舟状骨沈降度(Navicular Dropping Test:NDT)が高値であることも知られている。NDTは足底接地時の内側縦アーチの低下を示し,臨床現場で用いられている指標ではあるが,膝OA患者の歩行状態や運動機能にどのように影響を与えているかは十分に明らかになっていない。本研究の目的は変形性膝関節症患者における舟状骨沈降度と歩行及び運動機能との関連性について調査することである。
【方法】
対象は鳥取大学医学部附属病院整形外科にて,人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)及び高位脛骨骨切り術(High Tibial Osteotomy:HTO)を予定し入院した患者20名のうち,(1)認知症を有する者(長谷川式23点未満及び臨床的症状を有する),(2)中枢性神経疾患や筋疾患などの合併既往歴があるもの,(3)反対側の膝関節の観血的治療を施しているもの,(4)歩行不可能であるものを除いた18名とした(年齢75.8±10.2歳,身長146.9±8.2cm,体重53.5±8.2kg,BMI 24.6±3.3kg/m2)。まず,自己記入式アンケートにて併存疾患,過去1年間の転倒歴,Visual analogue scale(VAS),膝関節症機能評価尺度(Japan Knee Osteoarthritis Measure:JKOM),転倒自己効力感(Modified Falls Efficacy Scale:MFES),老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale:GDS)を聴取した。身体機能テストは開眼片脚立位時間,Timed up and go test(TUG),膝関節伸展筋力,5m歩行時間を計測した。歩行分析は歩行分析装置Opto gait(Microgate社製)を用い,歩行速度,ステップ長,歩行周期における荷重応答期時間,立脚中期時間,立脚後期時間,遊脚前期時間を測定した。それぞれの周期は,一歩行周期時間で除した値を用いた。足部形態の計測には,舟状骨沈降度(Navicular Dropping Test:NDT),を用いた。NDTは非荷重位,荷重位それぞれで舟状骨結節から床面へ引いた垂線を計測し,その差を算出した。Peasonの積率相関分析にて各変数間の相関関係を分析した。
【結果】
対象者のKL分類はIIが2名,IIIが3名,IVが13名であり,全員が女性であった。大腿脛骨角(femorotibial angle:FTA)は190.5±8.8°であり,全員が膝関節内反変形を呈していた。対象者全員のNDT平均値は9.2±2.9mmであった。NDTと統計学上有意に相関があったものはVAS(r=-0.527,P=0.043)とMFES(r=-0.543,p=0.035),荷重応答期率(r=-0.604,p=0.022)であった。その他の因子については,有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究ではNDTが高値であるほど歩行周期に占める荷重応答期時間は低下した。このことから,膝OA患者においてNDTは高値になるほど足部は荷重位にて回内位を呈し,足部の剛性が低下し,足底接地までの時間を短縮させた可能性がある。また,NDTが高値となるほどVASは有意に低下し,転倒恐怖心は有意に向上した。膝OA患者ではNDTを大きくすることによって,荷重時に足部を回内させ,膝関節内反モーメントを軽減することで荷重時の痛みを軽減させていた可能性があるが,その反面,足部の剛性低下が動的立位バランスを低下させ,転倒恐怖心が強くなったのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
NDT高値はOA患者における動的立位バランス低下の要因である可能性があったことから,足底挿板療法やテーピング療法によってNDTに介入することで,本患者の歩行状態の改善や転倒恐怖心,疼痛を軽減させる可能性がある点で理学療法研究として意義があると考える。