[P2-C-0593] 肩水平内転における腱板の伸張度合いについて
キーワード:水平内転, 内外旋, 腱板
【はじめに,目的】
日本整形外科学会が提唱した関節可動域測定法で,肩水平内転(以下HA)の基本軸は『肩峰を通る矢状面への垂線』,移動軸は『上腕骨』と定義されているが,上腕骨の回旋角度については特に定義されていない。しかしその角度によって可動域は大きく異なり,臨床でも痛みや違和感を訴えられることをよく経験する。またHAに関して,上腕骨の回旋角度によって軟部組織がどれほど伸張されているのかなどを報告したものは少ない。そこで今回,HAにおいて回旋角度の違いが腱板の伸張度合いにどれだけ影響するのかを明らかにするために,外旋90°~内旋30°の各回旋角度におけるHAの最終位を晒し骨にて再現し,腱板の起始・停止を計測し検討した。
【方法】
対象は健常成人30名(男性15名,女性15名,平均年齢:50.5±6.8歳)の利き手側30肩。測定は背凭れ椅子に被検者を座らせ体幹を固定し,第3肢位での外旋90°75°60°45°30°15°と0°,内旋10°20°30°の各肢位から他動的にHAを行い,最終位でのHA角(HAA)と肩甲上腕角(SHA),肩甲骨の上方回旋角(URA),前傾角(AVA),内方回旋角(IRA)を測定し平均値を出した。その結果を基に晒し骨で再現し,各肢位での棘上筋(SSP),肩甲下筋(SSC),棘下筋(ISP),小円筋(Tm)の近位付着部(近)と遠位付着部(遠)の全長を計測した。また上肢下垂位からの伸張度合いを確認するために,上腕体側位における腱板各筋の近と遠も計測した。なお近と遠に関して,ここでは結節間溝を中枢とし,中枢に近い付着部を近,遠い付着部を遠と定義した。統計解析はJMP ver.10を用い,男女比較をnon paired t-testにて行った。
【結果】
HAAの最大値は外旋15°の時で142.1±6.6°(以下mean±SD),その時SHA:95.0±8.6°,URA:134.1±4.3°,AVA:1.1±3.2°,IRA:62.5±7.9°であった。最小値は内旋30°時の131.3±7.8°で,その時SHA:84.0±11.1°,URA:144.3±5.5°,AVA:6.0±3.4°,IRA:60.1±11.7°であった。晒し骨による再現では,外旋90°時大結節は外側に位置し,外旋30°の時上腕骨頭は真下を向いていた。外旋15°から大結節は肩峰下に潜り込み,小結節と臼蓋上縁が隣接し,さらに内旋すると小結節が臼蓋内に侵入した(高濱ら(2009)は,HAを行うと前方関節唇と肩甲下筋腱が臼蓋側へ折れ曲がり反転した後,小結節が臼蓋内へ侵入したことを解剖遺体より確認している。さらに予備実験として,内旋30°におけるHA最終位をMRI撮影し,前方関節唇および小結節の臼蓋内侵入を確認した)。
腱板各筋の起始・停止全長は,SSP近(以下上腕体側位・外旋90°→内旋30°の形式で表記):12.8・13.7→10.5cm,SSP遠:12.9・14.1→11.5cm,SSC近:13.8・15.3→14.7cm,SSC遠:16.5・17.0→14.5cm,ISP近:14.3・14.7→12.4cm,ISP遠:16.0・16.9→18.2cm,Tm近:10.3・10.8→12.5cm,Tm遠:9.6・11.0→13.1cmであった。なお男女間の統計的有意差はなかった(p>0.05)。
【考察】
上腕骨のあらゆる回旋角度におけるHAを再現した結果,内旋すればするほどSSP,SSC,ISP上部繊維は弛緩し,ISPの下部繊維とTmは伸張されていくことが分かった。上腕体側位と比べると,外旋90°位では全筋が伸張位で,内旋していくと,同じくSSP,SSC,ISP上部繊維は弛緩,ISP下部繊維とTmはさらに伸張されていくことを確認した。このことは,腱板各筋だけでなく,腱板と生理的癒着し走行している関節包のストレッチ法や,腱板断裂術後患者に対する愛護的な水平内転運動法など,臨床的にも応用できる可能性が示唆された。今後は実際にアプローチを試み効果を検討していきたい。
【理学療法研究としての意義】
理学療法評価として,HAにおける腱板の伸張度合いについて報告した研究は少なく,その結果は学術的,社会的に意義のあるものと考えられる。すなわち,HA時の解剖学的位置関係と腱板の伸張度合いを把握することで,治療アプローチでの応用が期待できるのではないかと思われる。
日本整形外科学会が提唱した関節可動域測定法で,肩水平内転(以下HA)の基本軸は『肩峰を通る矢状面への垂線』,移動軸は『上腕骨』と定義されているが,上腕骨の回旋角度については特に定義されていない。しかしその角度によって可動域は大きく異なり,臨床でも痛みや違和感を訴えられることをよく経験する。またHAに関して,上腕骨の回旋角度によって軟部組織がどれほど伸張されているのかなどを報告したものは少ない。そこで今回,HAにおいて回旋角度の違いが腱板の伸張度合いにどれだけ影響するのかを明らかにするために,外旋90°~内旋30°の各回旋角度におけるHAの最終位を晒し骨にて再現し,腱板の起始・停止を計測し検討した。
【方法】
対象は健常成人30名(男性15名,女性15名,平均年齢:50.5±6.8歳)の利き手側30肩。測定は背凭れ椅子に被検者を座らせ体幹を固定し,第3肢位での外旋90°75°60°45°30°15°と0°,内旋10°20°30°の各肢位から他動的にHAを行い,最終位でのHA角(HAA)と肩甲上腕角(SHA),肩甲骨の上方回旋角(URA),前傾角(AVA),内方回旋角(IRA)を測定し平均値を出した。その結果を基に晒し骨で再現し,各肢位での棘上筋(SSP),肩甲下筋(SSC),棘下筋(ISP),小円筋(Tm)の近位付着部(近)と遠位付着部(遠)の全長を計測した。また上肢下垂位からの伸張度合いを確認するために,上腕体側位における腱板各筋の近と遠も計測した。なお近と遠に関して,ここでは結節間溝を中枢とし,中枢に近い付着部を近,遠い付着部を遠と定義した。統計解析はJMP ver.10を用い,男女比較をnon paired t-testにて行った。
【結果】
HAAの最大値は外旋15°の時で142.1±6.6°(以下mean±SD),その時SHA:95.0±8.6°,URA:134.1±4.3°,AVA:1.1±3.2°,IRA:62.5±7.9°であった。最小値は内旋30°時の131.3±7.8°で,その時SHA:84.0±11.1°,URA:144.3±5.5°,AVA:6.0±3.4°,IRA:60.1±11.7°であった。晒し骨による再現では,外旋90°時大結節は外側に位置し,外旋30°の時上腕骨頭は真下を向いていた。外旋15°から大結節は肩峰下に潜り込み,小結節と臼蓋上縁が隣接し,さらに内旋すると小結節が臼蓋内に侵入した(高濱ら(2009)は,HAを行うと前方関節唇と肩甲下筋腱が臼蓋側へ折れ曲がり反転した後,小結節が臼蓋内へ侵入したことを解剖遺体より確認している。さらに予備実験として,内旋30°におけるHA最終位をMRI撮影し,前方関節唇および小結節の臼蓋内侵入を確認した)。
腱板各筋の起始・停止全長は,SSP近(以下上腕体側位・外旋90°→内旋30°の形式で表記):12.8・13.7→10.5cm,SSP遠:12.9・14.1→11.5cm,SSC近:13.8・15.3→14.7cm,SSC遠:16.5・17.0→14.5cm,ISP近:14.3・14.7→12.4cm,ISP遠:16.0・16.9→18.2cm,Tm近:10.3・10.8→12.5cm,Tm遠:9.6・11.0→13.1cmであった。なお男女間の統計的有意差はなかった(p>0.05)。
【考察】
上腕骨のあらゆる回旋角度におけるHAを再現した結果,内旋すればするほどSSP,SSC,ISP上部繊維は弛緩し,ISPの下部繊維とTmは伸張されていくことが分かった。上腕体側位と比べると,外旋90°位では全筋が伸張位で,内旋していくと,同じくSSP,SSC,ISP上部繊維は弛緩,ISP下部繊維とTmはさらに伸張されていくことを確認した。このことは,腱板各筋だけでなく,腱板と生理的癒着し走行している関節包のストレッチ法や,腱板断裂術後患者に対する愛護的な水平内転運動法など,臨床的にも応用できる可能性が示唆された。今後は実際にアプローチを試み効果を検討していきたい。
【理学療法研究としての意義】
理学療法評価として,HAにおける腱板の伸張度合いについて報告した研究は少なく,その結果は学術的,社会的に意義のあるものと考えられる。すなわち,HA時の解剖学的位置関係と腱板の伸張度合いを把握することで,治療アプローチでの応用が期待できるのではないかと思われる。