第50回日本理学療法学術大会

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地域理学療法6

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0676] 地域在住の認知症高齢者と在宅介護を担う主介護者の両者における介護負担感と心理状態

池上泰友1,2, 清水富男1, 南健史2, 北浦重孝2 (1.社会医療法人愛仁会千船病院リハビリテーション科, 2.社会医療法人愛仁会愛仁会訪問看護ステーションほほえみ)

キーワード:認知症, 地域在住高齢者, 在宅介護

【はじめに,目的】
地域在住の認知症高齢者はますます増加の一途を辿るとされ,在宅介護を担う主介護者の役割は重要になっている。しかし,認知症はさまざまな行動や心理症状を呈することから主介護者のストレスの要因ともなっており,介護負担は大きくなることが報告されている。実際,ストレスから家族関係の混乱や崩壊を招いている事例も報告されている。そこで,両者の関係性を維持できるような支援が求められているが,両者に焦点を当てた報告はまだ少ない。本研究では,地域在住の認知症高齢者が主介護者の気持ちをどの程度理解しているのかを介護負担感から明らかにするとともに,両者に心理的な乖離が生じていないかを検証することを目的とした。
【方法】
2014年7~8月に訪問看護ステーションを利用している80組160名の65歳以上の地域在住高齢者(要介護者),要介護者を介護している主介護者にアンケートを配布後,後日回収する手法でアンケート調査を実施した。調査対象は回答に欠損のあった6組12名を除いた要介護者74名(平均年齢81.6±8.3歳,女性54名),主介護者74名(平均年齢64.4±14.3歳,女性44名)の74組148名とした。調査項目は,要介護者に対しては,要介護度,認知症高齢者の自立度判定基準,主観的幸福感としてPCGモラール・スケール,そしてZarit介護負担感尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8)とした。なお要介護者に対してJ-ZBI_8の項目を「介護者は困ってしまうと思いますか」と一部変更したJ-ZBI_8を作成して調査した。主介護者に対しては,続柄,介護期間,介護時間,認知症高齢者の自立度判定基準,PCGモラール・スケール,J-ZBI_8を調査した。統計学的検定には,認知症高齢者の自立度判定基準によりII以上を認知症群,正常またはIを非認知症群の2群に分類し,要介護者と主介護者の各測定項目をMann-WhitneyのU検定,対応のないt検定を用いて比較した。また,両群の要介護者と主介護者との関連についてはSpearmanの順位相関を行った。データの統計解析には,SPSS(ver.22)を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
要介護者は認知症群34名,非認知症群40名であった。両群の間で年齢,性別,続柄に有意差は認められなかった。J-ZBI_8は,認知症群(主介護者9.6±6.6,要介護者9.6±8.0),非認知症群(主介護者5.9±5.9,要介護者7.8±7.5)であった。J-ZBI_8における主介護者と要介護者の間には,認知症群(r=0.45,p<0.01),非認知症群(r=0.56,p<0.01)で両群とも有意に正の相関を示した。認知症群のJ-ZBI_8の下位項目では「社会参加の機会が減った」で主介護者が有意に高かった(p<0.05)。その他の下位項目に有意差は認められなかった。PCGモラール・スケールは,非認知症群(主介護者9.1±1.6,要介護者8.0±3.8)では有意差は認められなかったが,認知症群(主介護者7.5±2.0,要介護者8.8±2.8)では主介護者が有意に低かった(p<0.05)。介護時間は認知症群が有意に長かったが(p<0.01),介護期間では有意差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果,認知症のある要介護者と主介護者の介護負担感は相関を示したことから,認知症高齢者は介護者の気持ちをある程度理解していることが明らかとなった。しかしながら,認知症高齢者の介護を担う主介護者の社会参加の機会においては主介護者の方が負担を感じていて,両者の気持ちに乖離が生じていた。また,主介護者の介護時間は増大しており,PCGモラール・スケールは主介護者が低くなっていた。このことから,主介護者は介護により社会参加する時間が制限され,要介護者に理解されない孤独感から負担が増大していると推測した。したがって,我々は両方の思いをバランスよく融合し,より良い意志を形成できるように支援することが重要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
認知症の要介護者も介護者の介護負担感をある程度理解していることを明らかにした。また,社会参加できずに介護に拘束され,理解されないことが負担感を大きくしていることを示した。介護負担感は認知症者の介護を担う介護者だけでなく,認知症高齢者の心理状態を把握することで,介護者の介護負担軽減に向けた介入方法を支援する一助になると考える。