第50回日本理学療法学術大会

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予防理学療法1

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0702] 高齢者におけるGo/No-go課題とアフォーダンス知覚認知課題との関係性

近藤慶承1, 鶯春夫1, 樋口貴広2 (1.徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科, 2.首都大学東京人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス系知覚運動制御研究室)

キーワード:高齢者, アフォーダンス, Go/No-go課題

【はじめに,目的】
近年,高齢者の転倒予防分野において,アフォーダンス知覚認知課題が注目されている。一方,前頭葉機能の研究では,老化により行動抑制機能が低下することが報告されている。本研究では,Go/No-go課題とアフォーダンス知覚認知課題との関係性を明らかとし,高齢者の行動基盤の一部を解明することを目的とする。
【方法】
対象は,健常若年女性40名(以下,若年者群;平均年齢20.4±1.3歳)と地域在住の健康教室に参加している健常高齢女性21名(以下,高齢者群;平均年齢72.7±7.7歳)とした。
方法は,身体測定5項目,Timed up & go test(以下,TUG),5m最速歩行時間,Go/No-go課題の他,アフォーダンス知覚認知課題として,隙間通過課題とまたぎ課題を実施し,比較検討した。また,アンケートにて過去1年間の転倒歴及び転倒しそうになった回数を調査した。
Go/No-go課題は,座位にてLEDランプ(赤,青)を注視し,赤色ではボタンを押し(Go反応),青色ではボタンを押さない(No-go反応)ように指示した。全50回試行中10試行がNo-go反応であった。隙間通過課題は,3m先の隙間について,体を捻らずに通り抜けられる最小幅を4回見積もった後,実際の通過可能最小幅を計測した。またぎ動作課題では,3m先にバーを提示し,またぐことのできる最大高を4回見積もった後,実際のまたぎ可能最大高を計測した。
統計処理は,群比較としてt検定を行い,更に課題間の関連性についてSpearmanの相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
Go/No-go課題のmiss回数は,若年者群0.1±0.4回,高齢者群0.5±0.7回と有意であった(p<.05)。Go反応時間は,若年者群0.381±0.052秒,高齢者群0.500±0.084秒と有意であった(p<.001)。隙間通過課題では,見積もり平均値を実測最小幅で割った値を%換算した値(以下,通過%値)は,若年者群93.0±9.6%,高齢者群92.8±8.5%と有意差はなかった。またぎ動作では,見積もり平均値を実測最大高で割った値を%換算した値(以下,またぎ%値)は,若年者群91.3±9.1%,高齢者群102.9±6.9%と有意であった(p<.001)。
Go/No-go課題のmiss回数とTUG間では,若年者群に低い負の相関を認め(r=-.314,p<.05),高齢者群に正の相関を認めた(r=.588,p<.01)。また,miss回数と5m最速歩行時間の相関は,若年者群では負の相関を認め(r=-.408,p<.01),高齢者群では正の相関を認めた(r=.692,p<.01)。更に,Go反応時間と転倒しそうになった回数では,高齢者群のみ負の相関を認めた(r=-.473,p<.05)。
Go/No-go課題と隙間通過課題間では,miss回数と実測最小幅を身体幅で割った値との間に若年者群にのみ低い正の相関を認めた(r=.335,p<.05)。また,miss回数と見積もり平均値・実測最小幅の差を身体幅で割った値との間にも,若年者群のみ低い負の相関を認めた(r=-.314,p<.05)。一方,Go/No-go課題とまたぎ動作課題との間には,両群ともに相関を認めなかった。
【考察】
Go/No-go課題では,高齢者群が有意にmiss回数が多く,Go反応時間が遅かった。これは,加齢による抑制機能の低下を意味する。隙間通過課題では,通過%値に有意差がなく,またぎ課題のまたぎ%値では,高齢者群が若年者群と比較し有意に高かった。この結果より,アフォーダンス知覚認知課題では,課題動作により加齢の影響が異なると考えられた。
Go/No-go課題と隙間通過動作との相関から,若年者のmiss反応は隙間に対し過剰に体幹を捻る動作を選択することに繋がると考えられた。また,Go/No-go課題とまたぎ動作課題に相関はみられなかった。
Go/No-go課題におけるmiss回数とTUG及び5m最速歩行時間との相関が,若年者群では負の相関,高齢者群では正の相関であったことから,年齢によりmiss反応を起こす機序が異なると考えられた。また,Go/No-go課題は,TUG及び5m最速歩行時間と相関を認めたことから,新たな転倒リスクを検出できる可能性があると考える。

【理学療法学研究としての意義】
本研究から,加齢による抑制機能の低下が正しい行動選択を妨げ,移動能力の低下とともに,転倒の一因となっている可能性がある。Go/No-go課題とアフォーダンス知覚認知課題を用い,抑制機能と行動選択の関係性の一部を明らかとした。