第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0710] 通所リハビリテーション利用者の主観的QOLに関連する身体的・心理的・社会的要因

新岡大和1,2, 田口孝行3 (1.さいたま記念病院, 2.埼玉県立大学大学院リハビリテーション学専修, 3.埼玉県立大学理学療法学科)

キーワード:主観的QOL, 主観的幸福感, 生きがい

【はじめに,目的】通所リハビリテーション(以下,通所リハ)では利用者である障害高齢者が自分らしく生き生きした生活を送れるような支援が求められているが,その支援方法は明確ではない。自分らしい生き生きとした生活の定義に関しても明らかではないが,QOLが高い状態と考えられ,近年では個人の主観的判断である主観的QOLが重視されている。主観的QOLに関しては,これまで主観的幸福感や生きがいといった概念が報告されているが,主観的QOLを捉える際の時間性(過去・現在・未来)や関係性(個人的・社会的)に相違があるとされている。これらを踏まえると主観QOLの高い生活は,自身の過去・現在を受け入れ(主観的幸福感),未来に向かって前向きに生活している(生きがい)状況と考えられる。しかし,通所リハを利用する障害高齢者は身体的・心理的・社会的背景が多様であることから,これらを包括的に捉えて支援方法を検討する必要がある。よって,本研究では通所リハ利用者の主観的QOLに関連する要因を身体的・心理的・社会的側面から明らかにすることを目的とした。
【方法】対象はA県にある4つの介護老人保健施設において通所リハを利用している者99名(年齢:77±9歳)で,介護度の内訳は要支援1が8名,要支援2が17名,要介護1が31名,要介護2が23名,要介護3が17名,要介護4が3名であった。取り込み基準は明らかな認知症がなく測定方法が理解できること,歩行が可能であることとした。調査方法は対象に対して理学・作業療法士が下記に示す調査項目について調査した。調査項目は,基本情報として年齢,性別,要介護度を調査した。主観的QOLとして“主観的幸福感”は生活満足度K(LSIK),“生きがい”は生きがい感スケール(K-1式)を調査した。身体的要因として下肢筋力は30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),移動能力は最大5m移動時間,疼痛評価はNumerical Rating Scale(NRS),ADL能力は機能的自立度評価法の運動項目(M-FIM)を調査した。心理的要因として健康関連QOLはMOS 8-Item Short Form Health Survey(SF-8),抑うつは老年期うつ病評価尺度(GDS-15)を調査した。社会的要因としてソーシャルネットワークは日本語版Lubben Social Network Scale(LSNS-6),ソーシャルスキルはKikuchi’s Social Skill Scale・18項目版(KISS-18)を調査した。分析方法は通所リハ利用者の主観的QOLに関連する要因を明らかにするために,LSIKとK-1式を従属変数,身体的・心理的・社会的な各要因を独立変数としてSpearmanの積率相関係数を算出した。また,要支援者と要介護者の主観的QOLに関連する要因を明らかにするために,対象のうち要支援1・2と要介護1・2を分類して同様の分析を実施した。有意水準は5%とした。
【結果】全対象者(n=99)においてLSIKと有意な関連を認めた要因はGDS-15(r=-.612),SF-8のMCS(r=-.316),LSNS-6(r=.256),KISS-18(r=-.521)であり,K-1式と有意な関連を認めた要因はGDS-15(r=-.514),LSNS-6(r=.321),KISS-18(r=-.480)であった。要支援者(n=25)においてLSIKと有意な関連を認めた要因はGDS-15(r=-.646),SF-8のMCS(r=-.473),KISS-18(r=-.533)であり,K-1式と有意な関連を認めた要因はCS-30(r=.405),GDS-15(r=-.517),KISS-18(r=-.509)であった。要介護者(n=54)においてLSIKと有意な関連を認めた要因はGDS-15(r=-.506),LSNS-6(r=.236),KISS-18(r=-.481)であり,K-1式と有意な関連を認めた要因はGDS-15(r=-.468),LSNS-6(r=.368),KISS-18(r=-.401)であった。
【考察】今回の結果から通所リハにおいて主観的QOLが高い生活を支援するためには,抑うつ等の心理状態の評価をもとに,良好なソーシャルネットワークを築く仲間作り,コミュニケーションが取りやすい環境構築が重要だと考えられた。一方で,要支援者のみ下肢筋力と主観的QOLに関連を認め,ソーシャルネットワークと主観的QOLに関連を認めなかった。これは介護度が高い者は身体機能の改善が難しいことも多く,他者からの支援を必要とすることから心理的・社会的要因が主観的QOLと関連したと考えられた。一方,介護度が低い者は自身の活動が自立していることが多いため,ソーシャルネットワークに個人差が生じて主観的QOLと関連を認めず,またその活動を支える身体機能と主観的QOLが関連したものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は生活期における障害高齢者が主観的QOLの高い生活を送るための通所リハの支援方法を考える上で意義のある研究だと考える。