第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

神経・筋機能制御

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0778] 大腿骨近位部骨折術後早期の経皮的な神経筋電気刺激の有用性,安全性に関する予備的調査

―2症例による検討―

宮口和也1, 出口祐子1, 中園雅子1, 平田直希1, 中川理恵1, 肥田光正2 (1.奈良友紘会病院リハビリテーション科, 2.大和大学保健医療学部総合リハビリテーション学科理学療法学専攻)

Keywords:神経筋電気刺激, 大腿骨近位部骨折, 筋厚

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折後には大腿四頭筋の筋断面積の減少,膝伸展筋力の低下が報告されており,大腿四頭筋の筋機能の低下を予防することは,術後理学療法の重要な目的の一つである。しかし,術後の管理,認知機能や精神機能の変化,疼痛といった種々の要因により活動性が低下し,筋機能を維持するための早期理学療法の実施が困難な症例が散見される。
一方,経皮的な神経筋電気刺激(以下,NMES)は,術後早期から実施可能であり,本人のモチベーションに左右されにくく,術後早期の筋機能の低下を予防するために有用な治療法である。大腿骨近位部骨折の術後早期のNMESは過去にも報告されているが,強度や治療時間などのパラメータは一定しておらず,その効果も不明瞭である。そこで我々は,大腿骨近位部骨折患者2症例に対し術後早期のNMESを実施し,その有用性や安全性を予備的に調査した。
【方法】
対象は80歳代の女性2名で,患者Aは大腿骨転子部骨折で骨接合術を受け,患者Bは大腿骨頚部骨折で人工骨頭挿入術を受けた。受傷前移動能力は2例とも屋内歩行が自立していた。
NMESには低周波治療器(インターリハ社,インテレクト・モバイルスティム2777)を用い,術側下肢に実施した。被験者の肢位は背臥位で,膝窩部に枕を置き膝関節軽度屈曲位とした。電極は大腿神経,膝蓋骨上縁に貼付した。刺激パラメータは,周波数は50Hz,パルス幅は300μsec,オン/オフ時間を10秒/30秒,ランプアップ時間は2秒に設定し,刺激強度は疼痛や不快感の無い運動閾値レベルとした。治療期間は術後1週目から5週目までで,治療時間は1日1時間,治療頻度は週5日とした。
NMESの有用性は,超音波画像によって大腿筋厚を測定し評価した。大腿筋厚の測定は超音波画像診断装置(GE Healthcare社LOGIQ e)をBモードに設定し,12MHzのリニアプローブを用いた。測定肢位は安静背臥位で,測定部位の上前腸骨棘から膝蓋骨上縁を結んだ直線の中点の大腿部前面にマーキングを行なった。プローブは大腿部と平行とし,中心をマーキングに合わせ,筋肉を圧迫しないように皮膚に軽く触れるようにして,超音波画像を記録した。測定結果は3回実施したデータの平均値と1週目のデータを基準とした百分率を表記した。等尺性膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社μtas F-1)を用いて計測した。各評価は術後1,3,5週目に両側を計測した。NMESの安全性は,血圧や脈拍の測定,NMES実施前後での皮膚や創部の変化を確認し評価した。
【結果】
術後1,3,5週目の測定結果はそれぞれ以下の通りであった。大腿前面の筋厚は症例A,介入側24.6mm,22.9mm(93%),22.0mm(89%),非介入側,23.0mm,17.7mm(76%),19.0mm(82%),症例B,介入側25.8mm,25.9mm(100%),25.4mm(98%),非介入側,21.7mm,20.5mm(94%),16.8mm(77%)であり,介入側は維持が認められ,非介入側は症例Aが3週目に,症例Bが5週目に減少していた。膝伸展筋力は症例A,介入側3.4kgf,3.9kgf,4.9kgf,非介入側,6.4kgf,6.7kgf,10.9kgf,症例B,介入側6.8kgf,7.4kgf,8.2kgf,非介入側16.9kgf,14.1kgf,11.7kgfであり,介入側は維持あるいは改善傾向が認められたが,非介入側は一定の傾向が認められなかった。NMES実施前後のバイタルの変化は血圧や脈拍に軽微な増減を認めたが,一定の傾向は認められなかった。皮膚や創部の変化は認められなかった。対象者は,NMESの実施に伴う不快感や拒否を訴えることなく全てのNMESを受けた。
【考察】
本研究のNMESのパラメータにより,大腿前面の筋厚は維持された。また,NMESに伴うバイタルサインや創部,皮膚に副作用は認められず対象者の受け入れも良好であった。今後,さらにパラメータを改良してNMESを実施することで,大腿骨近位部骨折患者への術後早期のNMESの有効性を明らかにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,大腿骨近位部骨折術後患者の筋機能の低下を予防するためのNMESの有効性や安全性を報告した。本研究は,今後症例数を蓄積するための最良のパラメータを検討する上で重要な知見である。