第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

運動生理学2

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0943] 腰痛症者における股関節周囲筋群の筋活動パターン

西田勝治1, 治郎丸卓三2, 野口真一3, 南川未来1, 伊藤顕良1 (1.京都きづ川病院, 2.滋賀医療技術専門学校, 3.金沢整形外科クリニック)

Keywords:屈曲弛緩現象, 腰痛, 股関節周囲筋群

【はじめに,目的】
健常者で立位からの体幹屈曲最終域に腰部背筋群の筋活動が消失する屈曲弛緩現象(Flexion Relaxation Phenomenon:以下FRP)は,Allen(1948)により初めて報告され,現在広く知られるようになった。また,非特異的腰痛症者において腰部背筋群が過剰収縮し,FRP出現頻度が低いとの報告が数多くみられるようになった。Geisser et al.(2005)やMayer et al.(2009)は,FRPの消失が腰痛増悪に関与するとし,その感度と特異度が高いことから,腰痛の客観的治療効果判定の指標になりうると報告している。しかし,臨床上,腰痛症者に対して腰部だけでなく,多関節にわたり評価することは一般的である。これは,運動連鎖や,筋・筋膜性連結の観念があることからも,その必要性は明白である。しかし,腰痛症者の体幹屈曲最終域における腰部背筋群筋活動について報告したものは数多くあるが,股関節周囲筋群の筋活動との関連性について報告されたものは非常に少ない。したがって,今回,腰部背筋群以外の筋活動を検討する必要性がある。そこで本研究では,腰部腸肋筋(IL)のFRPが消失している腰痛症者の股関節周囲筋群筋活動を検討し,健常者と腰痛症者の筋活動の違いが股関節周囲筋群にも生じているか検討することを目的とした。
【方法】
対象は男性20名(年齢21.9±2.8歳,身長173.2±6.0cm,体重66.3±9.5kg),健常若年群10名,腰痛群10名とした。健常群は①過去6ヶ月以内に神経学的及び整形学的疾患を有さず,②ILにFRPが出現する者とした。また,腰痛群は①過去3ヶ月以上伴う疼痛,②神経根および馬尾に由来する下肢痛を伴わない,③解剖学的腰仙椎部に局在する疼痛,④ILにFRPが消失する者とした。
体幹屈曲運動は先行研究を参考にまず開始姿勢を立位とし,両上肢は体側へ自然に下ろした肢位とした。開始肢位では3秒の安静立位後,体幹を4秒かけて屈曲,最大屈曲位で4秒静止,その後開始姿勢に4秒かけて戻る動作とし,その際の筋活動を計測した。筋活動の計測には表面筋電計(Kissei Comtec社製MQ16)を用いた。対象筋はIL,胸部腸肋筋(IT),多裂筋(MF),大殿筋上部(GMaU),大殿筋下部(GMaL),腸腰筋(ILIO),大腿筋膜腸筋(TFL),大腿直筋(RF),縫工筋(SA)の9筋とし,計測側は右側とした。筋電図データは,筋電解析ソフト(Kissei Comtec社製KineAnalyzer)を用いて,フィルタ処理後(バンドパス10~500Hz),二乗平方平滑化処理(RMS)を行い,MMTによるMVCを基に正規化した。FRP出現の定義は,三瀧ら(2007)を参考に,安静立位時の筋活動の大きさより低値をFRPの出現の判定とした。統計学的分析はSPSS12.0Jを用いて,FRPの有無と姿勢間の変化に対し筋ごとに対応のあるt検定を行った。なお有意水準は5%とした。
【結果】
安静立位と体幹屈曲位での%MVCを比較した際,健常群ではIL,IT,MF,ILIO,TFLの5筋に体幹屈曲位で有意な減少が認められた(P<0.05)。また,GMaU,GMaLでは体幹屈曲位で有意な増加が認められた(P<0.05)。これに対し,腰痛群ではMFに有意な減少が認められ(P<0.05),GMaLでは有意な増加が認められた(P<0.05)。しかし,健常群で有意差が認められたIL,IT,ILIO,TFL,GMaUでは有意差は認められなかった。
【考察】
本研究は,体幹屈曲運動時において腰部背筋群以外に股関節周囲筋群の筋活動についても計測を行った。安静立位に比べ体幹屈曲位において,健常群ではIL,IT,MF,ILIO,TFLで有意に減少し,腰痛群ではIL,IT,ILIO,TFLで優位差は認められなかった。この結果から,腰背部筋群と同様に,股関節周囲筋群であるILIO,TFLにもFRPが認められることが明らかとなった。また,腰痛群において,IL,ITの過剰収縮とILIO,TFLの過剰収縮には関連性があることが明らかとなった。さらに,健常群では,安静立位に比べ体幹屈曲位でGMaU,GMaLは有意に増加したのに対して,腰痛群ではGMaLは有意に増加しGMaUでは有意差は認められなかった。この結果から,体幹屈曲位でGMaU,GMaLは活動を増加させる必要性があるが,腰痛症者においてはGMaUの活動が増加しないことが明らかとなった。以上の結果から,健常群と腰痛群では体幹屈曲最終域での筋活動において異なる筋活動パターンが生じていることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
本結果は,腰痛症における客観的な治療効果判定の指標として,今後臨床応用への一助を与える基礎的情報になると考える。