[P3-A-0965] キネシオテープ貼付が重心動揺に及ぼす影響
キーワード:キネシオテープ, 重心動揺, 周波数解析
【はじめに,目的】
ヒトの姿勢反応は,筋と前庭器官からの体性感覚と視覚からの情報で起こる一連のプログラムであり,微妙に揺れながら立位を保持している。この身体動揺を重心動揺と捉え,立位バランス機能の一つの指標としている。キネシオテーピングは,キネシオテープ(以下KT)を皮膚に貼付し,疼痛・筋緊張改善・リンパ,血液環流などの改善を目的とするテーピング方法である。足関節へのKTは固有受容器への感覚入力により,重心動揺安定性を改善させる報告があるが,周波数解析による動揺の特徴を捉えた報告は少ない。本研究はKT貼付が重心動揺に与える影響を周波数解析により調査することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人12名(女性5名男性7名),平均年齢25.3±5歳。手順は,静止立位と片脚立位での重心動揺を測定(貼付前)後,KTを貼付し同様の順番で測定(貼付後)した。各計測の間は60秒の安静座位とした。重心動揺測定は開足45°で静止立位を行い,上肢は軽く体側につけ,開眼と閉眼で行った。計測時間は60秒とした。片脚立位は開眼での右脚とし,左脚は股関節屈曲60°で下腿は下垂させた。計測時間は30秒とした。KTは「KINESIO Tex+PLUS WAVE」を使用し,踵から腓腹筋内外側頭の起始部まで貼付した。貼付肢位は腹臥位にて膝伸展,足関節背屈位とし下腿後面の皮膚が伸張された状態で貼付した。
重心動揺測定はZebris社製WinFDM-Tを用い,WinFDMシステム重心動揺レポートにより単位軌跡長(以下L/T)と単位面積軌跡長(以下L/E),重心動揺振幅のパワースペクトルX(以下前後方向),パワースペクトルY(以下左右方向)を抽出した。国際基準により0.02Hz~0.2Hzの低周波数域(以下Low),0.2Hz~2Hzの中周波数域(以下Mid),2Hz~20Hzの高周波数域(以下Hi)の周波数帯域におけるパワーの全パワーに対する百分率を表した。統計学的検討には,対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
開眼静止立位での貼付前後のL/T値は14.3±1.5m/sと14±1.3m/s,L/E値は6.1±2.5mmと7.1±2.7mm,前後方向のLowは31.5±11.5%と34.3±9.7%,Midは39.3±8%と39.1±8%,Hiは29±6.9%と26.4±5.9%であった。左右方向のLowは32.6±9.3%と33.1±10.6%,Midは37.4±7.4%と40.3±9.2%,Hiは29.9±6.8%と25.6±7.7%であった。
閉眼静止立位での貼付前後のL/T値は17.2±2.9m/sと16.2±2.2m/s,L/E値は3.8±1.5mmと4.2±1.5mm,前後方向のLowは30.4±11.5%と30±8.3%,Midは45.7±10.8%と43.1±7.5%,Hiは23.7±5.8%と26.7±6%であった。左右方向のLowは34.9±5.4%と33.9±6.9%,Midは44.6±7.2%と43±7.9%,Hiは20.4±6.8%と22.8±6.8%であった。
片脚立位での貼付前後のL/T値は23.9±5.6m/sと21.6±3.4m/s,L/E値は3±0.9mmと2.3±0.8mm,前後方向のLowは17.9±6.6%と22.1±6.6%,Midは57.3±8.3%と58±8.4%,Hiは24.7±7.1%と19.7±5.2%であった。左右方向のLowは23.3±6.7%と28±8.8%,Midは51±5.5%と45.5±8.8%,Hiは25.4±5.4%と26.4±4.9%であった。
片脚立位にて貼付前後でL/T値とL/E値が減少し有意差が認められたが,開眼閉眼の静止立位でのL/T値,L/E値,各周波数域のパワースペクトルには有意差はなかった。しかし,片脚立位で前後左右方向のLowに増加傾向を示し,前後方向のHiに減少する傾向があった。
【考察】
片脚立位では,KT貼付前後でのL/T値(P<0.05)の減少とL/Eの値(P<0.01)が有意に減少し,立位バランスの安定性が示された。また,周波数解析による前後左右方向において,各周波数領域に有意差はみられなかったが,前後左右方向でのLowの増加と前後方向でのHiの減少傾向を示した。
大川らはL/E値は視覚の影響を受けにくく,高周波数領域(2-5Hz)と強い相関があり,姿勢制御の微細さを示すとして固有感覚系の機能によるものと報告している。今回の結果より,L/E値が有意な減少と前後方向Hiの減少との関連性が考えられた。先行研究では前庭や視覚による姿勢制御は0.1Hz以下の周波数帯域の動揺を制御しており,体性感覚は1Hz以上の周波数帯域を制御している。特に,下腿三頭筋の体性感覚では2Hz以上の高周波数帯域の動揺を抑制していると報告されており,今回の調査でもKT貼付後に前後方向でのHiの減少傾向を示した。
本研究結果から,KT貼付による何らかの作用が周波数帯域への変化を与えた可能性が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,片脚立位においてKT貼付による周波数帯域への影響が示唆された。KT貼付による効果機序の解明の研究に活用が期待される。
ヒトの姿勢反応は,筋と前庭器官からの体性感覚と視覚からの情報で起こる一連のプログラムであり,微妙に揺れながら立位を保持している。この身体動揺を重心動揺と捉え,立位バランス機能の一つの指標としている。キネシオテーピングは,キネシオテープ(以下KT)を皮膚に貼付し,疼痛・筋緊張改善・リンパ,血液環流などの改善を目的とするテーピング方法である。足関節へのKTは固有受容器への感覚入力により,重心動揺安定性を改善させる報告があるが,周波数解析による動揺の特徴を捉えた報告は少ない。本研究はKT貼付が重心動揺に与える影響を周波数解析により調査することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人12名(女性5名男性7名),平均年齢25.3±5歳。手順は,静止立位と片脚立位での重心動揺を測定(貼付前)後,KTを貼付し同様の順番で測定(貼付後)した。各計測の間は60秒の安静座位とした。重心動揺測定は開足45°で静止立位を行い,上肢は軽く体側につけ,開眼と閉眼で行った。計測時間は60秒とした。片脚立位は開眼での右脚とし,左脚は股関節屈曲60°で下腿は下垂させた。計測時間は30秒とした。KTは「KINESIO Tex+PLUS WAVE」を使用し,踵から腓腹筋内外側頭の起始部まで貼付した。貼付肢位は腹臥位にて膝伸展,足関節背屈位とし下腿後面の皮膚が伸張された状態で貼付した。
重心動揺測定はZebris社製WinFDM-Tを用い,WinFDMシステム重心動揺レポートにより単位軌跡長(以下L/T)と単位面積軌跡長(以下L/E),重心動揺振幅のパワースペクトルX(以下前後方向),パワースペクトルY(以下左右方向)を抽出した。国際基準により0.02Hz~0.2Hzの低周波数域(以下Low),0.2Hz~2Hzの中周波数域(以下Mid),2Hz~20Hzの高周波数域(以下Hi)の周波数帯域におけるパワーの全パワーに対する百分率を表した。統計学的検討には,対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
開眼静止立位での貼付前後のL/T値は14.3±1.5m/sと14±1.3m/s,L/E値は6.1±2.5mmと7.1±2.7mm,前後方向のLowは31.5±11.5%と34.3±9.7%,Midは39.3±8%と39.1±8%,Hiは29±6.9%と26.4±5.9%であった。左右方向のLowは32.6±9.3%と33.1±10.6%,Midは37.4±7.4%と40.3±9.2%,Hiは29.9±6.8%と25.6±7.7%であった。
閉眼静止立位での貼付前後のL/T値は17.2±2.9m/sと16.2±2.2m/s,L/E値は3.8±1.5mmと4.2±1.5mm,前後方向のLowは30.4±11.5%と30±8.3%,Midは45.7±10.8%と43.1±7.5%,Hiは23.7±5.8%と26.7±6%であった。左右方向のLowは34.9±5.4%と33.9±6.9%,Midは44.6±7.2%と43±7.9%,Hiは20.4±6.8%と22.8±6.8%であった。
片脚立位での貼付前後のL/T値は23.9±5.6m/sと21.6±3.4m/s,L/E値は3±0.9mmと2.3±0.8mm,前後方向のLowは17.9±6.6%と22.1±6.6%,Midは57.3±8.3%と58±8.4%,Hiは24.7±7.1%と19.7±5.2%であった。左右方向のLowは23.3±6.7%と28±8.8%,Midは51±5.5%と45.5±8.8%,Hiは25.4±5.4%と26.4±4.9%であった。
片脚立位にて貼付前後でL/T値とL/E値が減少し有意差が認められたが,開眼閉眼の静止立位でのL/T値,L/E値,各周波数域のパワースペクトルには有意差はなかった。しかし,片脚立位で前後左右方向のLowに増加傾向を示し,前後方向のHiに減少する傾向があった。
【考察】
片脚立位では,KT貼付前後でのL/T値(P<0.05)の減少とL/Eの値(P<0.01)が有意に減少し,立位バランスの安定性が示された。また,周波数解析による前後左右方向において,各周波数領域に有意差はみられなかったが,前後左右方向でのLowの増加と前後方向でのHiの減少傾向を示した。
大川らはL/E値は視覚の影響を受けにくく,高周波数領域(2-5Hz)と強い相関があり,姿勢制御の微細さを示すとして固有感覚系の機能によるものと報告している。今回の結果より,L/E値が有意な減少と前後方向Hiの減少との関連性が考えられた。先行研究では前庭や視覚による姿勢制御は0.1Hz以下の周波数帯域の動揺を制御しており,体性感覚は1Hz以上の周波数帯域を制御している。特に,下腿三頭筋の体性感覚では2Hz以上の高周波数帯域の動揺を抑制していると報告されており,今回の調査でもKT貼付後に前後方向でのHiの減少傾向を示した。
本研究結果から,KT貼付による何らかの作用が周波数帯域への変化を与えた可能性が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,片脚立位においてKT貼付による周波数帯域への影響が示唆された。KT貼付による効果機序の解明の研究に活用が期待される。