第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0968] 小切断患者の歩行特性とリスクについて

大塚未来子 (大分岡病院総合リハビリセンター)

キーワード:小切断, 歩行特性, リスク

【はじめに,目的】
近年,下肢救済医療技術の進歩と病診連携により救肢率は向上し,今まで大切断を余儀なくされた難治性足病患者も血行再建術を施行し,最小限の切断で食止めることが可能となった。残存出来た貴重な足を機能的かつ安全に使い「歩き続ける」事が可能か,小切断後のリハビリテーションの課題である。本研究の目的は,小切断患者の歩行を時間的因子・距離的因子・力学的因子から分析し,小切断患者の歩行の安全性をより確実なものにするための歩行指導や装具療法を検討することである。
【方法】
被検者は2010年~2013年に当院創傷ケアセンターを受診された小切断(足関節以遠の部分切断で足趾や中足骨レベルの切断)患者23人である。性別は男性12人に女性11人,平均年齢は63±14歳であった。
計側は約9mの歩行路の中間地点に2.4mのシート式足圧接地足跡計測装置ウォークWay(アニマ社)を設置し,自然歩行より裸足データを採取した。さらに,データから定常歩行の足跡を抽出し圧力分布解析機能(プレダス)にて足圧分布を解析した。歩行パラメーターは時間的因子として非切断肢及び切断肢の立脚相(%)と初期及び終期両脚支持期(%),距離的因子として非切断肢及び切断肢の歩幅(cm)を算出した。また力学的因子として非切断肢及び切断肢の足跡一歩分を抽出し足圧分布(kgf)の平均値を後足部と前足部に区分した。統計学的処理は対応があるt検定を行い有意水準は5%とした。
【結果】
小切断患者の歩行周期における立脚相は非切断肢64.9±4.2%,切断肢60.3±2.8%と非切断肢の立脚相の延長を認めた(p<0.01)。切断肢を基準とした両脚支持期は,初期14±3.8%,終期11±2.8%と初期と終期に差を認めた(p<0.01)。歩幅は,切断肢41.9±8.6cm,非切断肢38±11.1cmと切断肢の移動距離が長く有意差を認めた(p<0.05)。足圧分布では非切断肢の後足部圧18.4±7.8kgf,非切断肢の前足部圧26.8±13.9kgf,切断肢の後足部圧20±6.9kgf,切断肢の前足部圧17.1±13.8kgfであり,相対的に非切断肢の前足部圧が高値であった。
【考察】
小切断患者の創傷再発防止に向けて「歩行特性を知る」ことは重要である。そして,単に健常人との歩行の相違を検討するのでなく,小切断後の歩行が与えられた環境や条件に適合できるか検討することが救肢のための評価となると考えた。
小切断患者の歩行は,時間的因子である立脚相において非切断肢65%切断肢60%と非切断肢の立脚相の延長及び有意差を認めた。さらに両脚支持期は初期11%終期15%とこちらも有意差を認めた。この差は歩行立脚相における左右非対称性を証明している。これは切断足の足部形態変化及び支持基底面の狭小化により,切断肢から非切断肢への荷重の引き継ぎが再構築され,新しい歩行形態となったことを示す結果と考えられる。次に,距離的因子である歩幅は非切断肢と切断肢の一歩の移動距離に有意差を認めた。歩行とは左右対称性をもって効率的な身体重心の移動を行うと定義されているが,左右非対称となった小切断患者の歩行は非効率的となったことを「特性」と捉えなければならない。次に,力学的因子である足圧分布においては,非切断足の前足部圧負荷力を認めた。これは,切断肢から非切断肢への荷重引き継ぎが再構築されたことで踵接地(IC)の開始が早まり,後足部での衝撃吸収が得られにくく,前足部圧の上昇を認めたと考えられる。
以上のことより,小切断患者の「歩行特性」は時間的因子・距離的因子にて左右非対称性を示すことであり,「リスク」は非切断肢の前足部圧の上昇を認めることである。小切断患者の特性を理解し,非対称的となった新たな歩行形態でも安全で環境に適応しながら歩き続けることを目指すことが重要である。
小切断患者がリスクを回避し安全な歩行環境を築くには,装具療法とリハビリテーションが必須となる。装具療法では靴型装具を作成し切断肢の前足部接地面積確保と両脚支持機構の安定化を図る。アウターソールは過度の踏み返しを制御する硬性素材が適切と思われる。リハビリテーションでは歩行計測の解析を元に揃え型歩行や杖歩行といった前足部の足圧負荷力の軽減を考慮した歩行様式を指導しながら,非切断肢の衝撃吸収機構や切断肢の変形予防のため運動療法を行う。そして,患者の生活能力,自己管理能力でリスクを回避できることを確認し自然歩行へ移行していくことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
小切断患者の安全な歩きを支援し創傷再発を予防することは重要なことであり,本研究はそれに関連する有益な情報を提供するものであると考える。