第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

がん その他1

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1115] 長期療養高齢患者の栄養状態がFIM運動機能項目に及ぼす影響

―NST(nutrition support team)導入後の検討―

矢野広宣1,2, 松尾善美2,3, 柳澤幸夫4, 直江貢1, 國友一史5 (1.医療法人久仁会鳴門山上病院診療協力部リハビリテーション部門, 2.武庫川女子大学大学院健康・スポーツ科学研究科, 3.武庫川女子大学健康・スポーツ科学部, 4.徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科, 5.医療法人久仁会鳴門山上病院診療部)

キーワード:栄養指標, NST, M-FIM

【はじめに,目的】長期療養高齢患者は,基礎疾患を背景とした異化亢進状態により,身体活動量や食事摂取量が減少した結果,タンパク質・エネルギー低栄養状態に陥っていることが多い。この低栄養状態により,骨格筋量や脂肪量,さらに体重が減少し,同時に血清アルブミン値(Alb)も低下傾向にある。これまでAlbは,独立した栄養指標として使用されてきたが,近年,Albに体重を踏まえたGNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)が高齢患者の栄養指標に用いられている。我々は第49回日本理学療法学術大会において,GNRIとNST(nutrition support team)導入前のFIM運動機能項目(M-FIM)との関連性を検討した結果,軽度な相関を認めたことを報告した。今回はNSTを基盤としたリハビリテーション・ケア(リハ・ケア)の効果を検証するため,長期療養高齢患者の栄養状態がM-FIMに及ぼす影響について調査することを目的とした。

【方法】対象は,当院介護保険療養病棟(介護病棟)においてNSTを導入した2011年11月から2013年10月までの2年間に入棟した経口摂取可能な高齢患者59例(男性19名・女性40名,84.7±8.3歳)であった。方法は,診療録の記載内容より身長,体重,BMI,Alb,総リンパ球数(TLC),M-FIM,FIM認知機能項目(C-FIM),FIMの総得点を後方視的に抽出し,GNRIと予後予測の指標であるPNI(prognostic nutritional index)を算出した。栄養指標であるGNRIは,重度と中等度なリスクのカットオフ値82.0より高い群(GNRI高値群)と低い群(GNRI低値群)の2群に分類し,群間比較のため,対応のないt検定やMann-Whitney検定を用いた。また,GNRIと体重,BMI,Alb,PNI,M-FIM,C-FIM,FIMの総得点との関連性を調べるため,Pearsonの相関係数やSpearmanの順位相関係数を用いた。さらに,GNRI高値群と低値群を従属変数とし,BMI,PNI,M-FIM,FIMの総得点を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を適用し,各変数の影響度を検討した。なお,有意水準は危険率5%未満とし,統計処理には,IBM SPSS statistics ver.21を使用した。

【結果】GNRI高値群,低値群の体重(kg)は各々49.4±8.4,38.4±9.6,BMIは21.3±3.0,16.5±2.6,Alb(g/dl)は3.5±0.5,3.0±0.4,PNIは44.0±5.9,37.7±4.4であり,体重,BMI,Alb,PNIはGNRI低値群より高値群で有意にスコアが高かった(p<0.05)が,M-FIM,C-FIM,FIMの総得点には有意差がなかった。さらに,栄養指標であるGNRIに影響する変数として,PNIとBMIが抽出された(p<0.01)が,M-FIMとFIMの総得点には影響がみられなかった。PNIのオッズ比は0.665で,BMIのオッズ比は0.453であった(p<0.01)。

【考察】当院NSTは,多職種により構成され,栄養不良な高齢患者に対して,定期的な症例検討会や病棟回診を実施している。NST導入後において,GNRIの高低により,体重,BMI,Alb,PNIに有意差がみられたのは,基礎疾患や合併症による身体活動量や食事摂取量の増減が長期間に及んだ結果,栄養状態を維持・改善させるのが困難であったと推察された。また,GNRIと心身機能を反映するM-FIM,C-FIM,FIMの総得点との関連性はなかったが,PNIやBMIは,GNRIに影響を及ぼす因子であった。これらのことから,PNIもNSTの評価指標とし,予後予測を視野に入れた検討に活用することが期待できる。一方,リハ栄養の視点より,阿部らは回復期リハビリ病棟から療養病棟に転棟された患者に対して,運動負荷量を考慮した栄養摂取量や提供栄養量の調節を検討するよう指摘している。我々の先行研究ではNST導入前は運動機能と栄養に関連を認めたが,NST導入後の検討を行った本研究では関連を認めなかった。このことは,介護病棟においてリハ・ケアを展開する上で,NST介入後においても栄養リスクが高い症例には,栄養状態を考慮した運動負荷量,および生活に密着した活動量の調整について十分留意すべきであることを示唆している。NSTを核とし,栄養過多や低栄養に陥らないようにPNIやBMI,さらにGNRIに基づいた栄養指標によるモニタリングと身体組成計による骨格筋量や脂肪量の測定に併せて,活動性の向上につながるリハを多職種との連携・協働の下で多角的,かつ包括的に取り組むことが今後の課題である。

【理学療法学研究としての意義】長期療養高齢患者の栄養状態が心身・生活機能に及ぼす影響を検証することは,栄養を考慮した包括的なリハビリテーションを展開する上において意義があると考える。