[P3-A-1148] 外側スラストに対する治療介入の可能性
―Japan Thrust Contest―
キーワード:変形性膝関節症, ラテラルスラスト, 介入
【はじめに】
変形性膝関節症(膝OA)の罹患率1200万人と推計され,要介護要因の4位にあることなどから,超高齢社会を迎えた本邦において様々な対応が必要となる。従来,膝OAの診断には,レントゲン所見が使用されているが,膝関節痛などの臨床所見と関連せず,矛盾する結果となることが少なくない。この原因として,多くの膝OA患者が歩行などの動作時に膝関節痛を訴えることが多いことが挙げられる。これらのことから近年,動的評価法の一つとして外側スラストが着目されている。この外側スラストは膝OAの増悪リスクを4倍に高めるなど,病態レベルにおいても着目すべき危険因子と認識されおり,この外側スラストに対する治療的介入が期待されているが,現状においては,臨床現場において,それぞれの臨床家が個別に経験則に基づいて行っているのが現状である。そこで,膝OAの外側スラストを減弱,あるいは消失させるための治療戦略を募集し,公開の場で,スラストに対する治療介入方法を討論する目的でJapan Thrust Contestを開催したため,ここに報告する。
【方法】
全国の臨床家や企業に向けて,インターネットを通じ,発表者および聴講者を募集したところ,110名の参加応募があり,計6チームの発表演題登録があった。発表チームの属性は,理学療法士を中心とした臨床家チームが3チーム,専門的な計測機器や装具などを使用した企業・学術チームが3チームであった。発表内容は,歩行中にスラストを認める膝OA患者を対象に,スラストを抑制するアプローチを,様々な視点から発表し,シンポジウム形式で公開討論を行った。
【結果】
外側スラストは運動力学指標における外部内反モーメントの増大と捉えられており,運動療法による治療コンセプトとしては前額面上の体幹,股関節,足部から中間関節である膝関節の運動学的異常を制御するという共通の見解を得ることができた。しかし,実際の治療場面では,矢状面を含めた3次元視点からアプローチしていることが明らかになり,その手法は様々であった。さらに,介入の結果として,膝OA全例に適用できる訳ではなく,軽度な膝OA患者においてのみ,スラストは改善しうることが報告された。
また,装具療法に主眼を置いた発表では,膝関節を直接的に矯正させる目的では装具療法が有効であり,従来から指摘されていた低いコンプライアンスを改善するために,軽量化やフィッティングに工夫がされてきており,有意な内反モーメント減少効果が期待できることが明らかになった。
【考察】
本シンポジウムから,膝OA患者の臨床家,研究者,企業での開発に携わる専門家の外側スラストに対する共通認識として,軽症のスラストは治療対象になりうることが明らかになった。ただし,スラストを抑制するために,隣接関節のどのような運動学的異常に着目すべきかに関しては一定の結論は得られなかった。また,一定の治療介入でも改善が得られる症例とそうでない症例が混在している現状も明らかになった。今後の課題として,スラストの原因に応じた介入の戦略を細分化していき,一定のアルゴリズムを作成する必要性があることが示唆された。さらに,装具療法においては,一定の効果は認められているものの,装具の形状により,その効果は千差万別で,今後さらなる研究開発が必要であることが示唆された。シンポジウムで得られた見解を統合すると,スラストを抑制するためには,運動療法と装具療法ともに一定の見解が得られる部分も多いが,実際の臨床現場での介入方法は多様化しているため,今後,介入戦略の分類化とその適応,効果検証を科学的に証明していく必要性が,新たな課題として明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本コンテストでは,臨床家,研究者,企業の開発者といった属性が全く異なる者が,“外側スラストを減少する”という同じテーマをもとに討論することで,一定の共通認識があることが確認でき,治療戦略確立のための第一歩となった。本コンテストのように,ダイバーシティから新たな価値を創造し,社会に還元していく取り組みは,今後さらにその重要性が増すことが考えられ,理学療法学という学問を社会貢献に活かして行くモデルケースとなることが期待される。
変形性膝関節症(膝OA)の罹患率1200万人と推計され,要介護要因の4位にあることなどから,超高齢社会を迎えた本邦において様々な対応が必要となる。従来,膝OAの診断には,レントゲン所見が使用されているが,膝関節痛などの臨床所見と関連せず,矛盾する結果となることが少なくない。この原因として,多くの膝OA患者が歩行などの動作時に膝関節痛を訴えることが多いことが挙げられる。これらのことから近年,動的評価法の一つとして外側スラストが着目されている。この外側スラストは膝OAの増悪リスクを4倍に高めるなど,病態レベルにおいても着目すべき危険因子と認識されおり,この外側スラストに対する治療的介入が期待されているが,現状においては,臨床現場において,それぞれの臨床家が個別に経験則に基づいて行っているのが現状である。そこで,膝OAの外側スラストを減弱,あるいは消失させるための治療戦略を募集し,公開の場で,スラストに対する治療介入方法を討論する目的でJapan Thrust Contestを開催したため,ここに報告する。
【方法】
全国の臨床家や企業に向けて,インターネットを通じ,発表者および聴講者を募集したところ,110名の参加応募があり,計6チームの発表演題登録があった。発表チームの属性は,理学療法士を中心とした臨床家チームが3チーム,専門的な計測機器や装具などを使用した企業・学術チームが3チームであった。発表内容は,歩行中にスラストを認める膝OA患者を対象に,スラストを抑制するアプローチを,様々な視点から発表し,シンポジウム形式で公開討論を行った。
【結果】
外側スラストは運動力学指標における外部内反モーメントの増大と捉えられており,運動療法による治療コンセプトとしては前額面上の体幹,股関節,足部から中間関節である膝関節の運動学的異常を制御するという共通の見解を得ることができた。しかし,実際の治療場面では,矢状面を含めた3次元視点からアプローチしていることが明らかになり,その手法は様々であった。さらに,介入の結果として,膝OA全例に適用できる訳ではなく,軽度な膝OA患者においてのみ,スラストは改善しうることが報告された。
また,装具療法に主眼を置いた発表では,膝関節を直接的に矯正させる目的では装具療法が有効であり,従来から指摘されていた低いコンプライアンスを改善するために,軽量化やフィッティングに工夫がされてきており,有意な内反モーメント減少効果が期待できることが明らかになった。
【考察】
本シンポジウムから,膝OA患者の臨床家,研究者,企業での開発に携わる専門家の外側スラストに対する共通認識として,軽症のスラストは治療対象になりうることが明らかになった。ただし,スラストを抑制するために,隣接関節のどのような運動学的異常に着目すべきかに関しては一定の結論は得られなかった。また,一定の治療介入でも改善が得られる症例とそうでない症例が混在している現状も明らかになった。今後の課題として,スラストの原因に応じた介入の戦略を細分化していき,一定のアルゴリズムを作成する必要性があることが示唆された。さらに,装具療法においては,一定の効果は認められているものの,装具の形状により,その効果は千差万別で,今後さらなる研究開発が必要であることが示唆された。シンポジウムで得られた見解を統合すると,スラストを抑制するためには,運動療法と装具療法ともに一定の見解が得られる部分も多いが,実際の臨床現場での介入方法は多様化しているため,今後,介入戦略の分類化とその適応,効果検証を科学的に証明していく必要性が,新たな課題として明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本コンテストでは,臨床家,研究者,企業の開発者といった属性が全く異なる者が,“外側スラストを減少する”という同じテーマをもとに討論することで,一定の共通認識があることが確認でき,治療戦略確立のための第一歩となった。本コンテストのように,ダイバーシティから新たな価値を創造し,社会に還元していく取り組みは,今後さらにその重要性が増すことが考えられ,理学療法学という学問を社会貢献に活かして行くモデルケースとなることが期待される。