[P3-B-0887] 腹部引き込み動作時の骨盤傾斜角度と腰部多裂筋の筋断面積の関係
キーワード:多裂筋, 超音波画像診断装置, 成人女性
【はじめに,目的】
脊柱のアライメントに影響を与える筋には,腹筋群,背筋群,股関節屈筋群などがある。近年,腰椎の分節的コントロールや腰椎骨盤領域の安定性に関与する腹横筋や腰部多裂筋が注目され,多くの研究が行われている。理学療法では腰痛治療の一つとして腹横筋の収縮を促すために腹部引き込み動作が応用されている。しかし,研究の多くは成人男性を対象としている。また,腰部多裂筋に関しては,骨盤の傾斜角度による筋断面積変化についての報告は少なく,腹部引き込み動作時の骨盤傾斜の違いが多裂筋に与える影響は明らかとなっていない。本研究の目的は成人女性を対象とし,腹部引き込み動作時の骨盤傾斜が腰部多裂筋に与える影響を,超音波診断装置を用いて確認することである。
【方法】
対象は腰痛の既往のない健常成人女性12名とした。身体組成として,身長,体重を測定した(158.2±4.8cm,49.1±6.1kg)。腰部多裂筋の筋断面積測定には,汎用超音波画像診断装置(Viamo SSA-640A)を使用し,その操作に慣れた1名を検者とした。測定肢位は,腰部多裂筋の収縮が起こりにくい抗重力位である腹臥位を基準値として実施し,その後,座位骨盤中間位,座位骨盤前傾位,座位骨盤後傾位,安静立位を行った。測定部位は,第4腰椎棘突起側方としプローブを脊柱と垂直に設置した。測定肢位ごとに左右の腰部多裂筋を静止画像にて記録し,0.1mm単位で筋断面積を測定した。記録中は,安静呼吸と腹部引き込み動作の2種類を行うように指示した。記録された多裂筋の画像から筋断面積を3回計測しその平均値を肢位ごとの断面積とし,基準値である腹臥位での多裂筋の筋断面積から引いた値を用いた。統計処理として,安静呼吸および腹部引き込み動作での肢位の違いによる筋断面積の比較には,一元配置分散分析とTukey検定を用い,各肢位での安静呼吸と腹部引き込み動作の比較には対応のあるT検定を用いた。それぞれ有意水準は5%未満とした。
【結果】
座位骨盤前傾位,および座位骨盤中間位における多裂筋は,安静呼吸(座位骨盤前傾位:Rt37.3±115.9mm2,Lt19.3±101.4mm2,座位骨盤中間位:Rt41.0±92.7mm2,Lt31.2±73.7mm2)よりも腹部引き込み動作(座位骨盤前傾位:Rt1.8±122.0mm2,Lt-17.4±105.9mm2,座位骨盤中間位:Rt-9.7±84.9mm2,Lt-12.9±71.3mm2)で筋断面積が有意に小さくなった。そのほかの肢位では有意差は認められなかった。また,安静呼吸および腹部引き込み動作での肢位の違いによる筋断面積には有意差が認められなかった
【考察】
腰部多裂筋は,主に腰椎の棘突起・椎体・椎弓から,仙骨・腸骨稜・腰椎の乳様突起に停止するため,脊柱の伸展や骨盤前傾などに関与する。先行研究において,座位骨盤前傾位での腹部引き込み動作では,腰部多裂筋の筋活動がおこると報告されている。今回,骨盤前傾時に多裂筋の筋断面積に変化が生じたことから多裂筋が収縮していたと考えられる。男性では骨盤前傾位や息を吐ききることで腰部多裂筋の筋断面積は大きくなると報告されている。しかし,女性を対象とした本研究においては,骨盤前傾と中間位で筋断面積は減少した。腰椎の前弯や骨盤の形状は女性と男性では大きく異なっている。また女性は,座位姿勢保持のために多裂筋以外の背筋群を強く収縮させる可能性もある。これらのことから,多裂筋の筋断面積変化は収縮しながらも小さくなったと推察された。今後は多裂筋の筋断面積と筋収縮の関係について性差の違いを明らかにするために,女性の多裂筋の筋活動を筋電図を用い検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
女性の骨盤前後傾,中間位,立位における腹部引き込み動作時の多裂筋の筋断面積変化を知ることで,今後の理学療法の一指標となり,超音波診断装置を用いながら運動療法をおこなう際の一助となり得る。
脊柱のアライメントに影響を与える筋には,腹筋群,背筋群,股関節屈筋群などがある。近年,腰椎の分節的コントロールや腰椎骨盤領域の安定性に関与する腹横筋や腰部多裂筋が注目され,多くの研究が行われている。理学療法では腰痛治療の一つとして腹横筋の収縮を促すために腹部引き込み動作が応用されている。しかし,研究の多くは成人男性を対象としている。また,腰部多裂筋に関しては,骨盤の傾斜角度による筋断面積変化についての報告は少なく,腹部引き込み動作時の骨盤傾斜の違いが多裂筋に与える影響は明らかとなっていない。本研究の目的は成人女性を対象とし,腹部引き込み動作時の骨盤傾斜が腰部多裂筋に与える影響を,超音波診断装置を用いて確認することである。
【方法】
対象は腰痛の既往のない健常成人女性12名とした。身体組成として,身長,体重を測定した(158.2±4.8cm,49.1±6.1kg)。腰部多裂筋の筋断面積測定には,汎用超音波画像診断装置(Viamo SSA-640A)を使用し,その操作に慣れた1名を検者とした。測定肢位は,腰部多裂筋の収縮が起こりにくい抗重力位である腹臥位を基準値として実施し,その後,座位骨盤中間位,座位骨盤前傾位,座位骨盤後傾位,安静立位を行った。測定部位は,第4腰椎棘突起側方としプローブを脊柱と垂直に設置した。測定肢位ごとに左右の腰部多裂筋を静止画像にて記録し,0.1mm単位で筋断面積を測定した。記録中は,安静呼吸と腹部引き込み動作の2種類を行うように指示した。記録された多裂筋の画像から筋断面積を3回計測しその平均値を肢位ごとの断面積とし,基準値である腹臥位での多裂筋の筋断面積から引いた値を用いた。統計処理として,安静呼吸および腹部引き込み動作での肢位の違いによる筋断面積の比較には,一元配置分散分析とTukey検定を用い,各肢位での安静呼吸と腹部引き込み動作の比較には対応のあるT検定を用いた。それぞれ有意水準は5%未満とした。
【結果】
座位骨盤前傾位,および座位骨盤中間位における多裂筋は,安静呼吸(座位骨盤前傾位:Rt37.3±115.9mm2,Lt19.3±101.4mm2,座位骨盤中間位:Rt41.0±92.7mm2,Lt31.2±73.7mm2)よりも腹部引き込み動作(座位骨盤前傾位:Rt1.8±122.0mm2,Lt-17.4±105.9mm2,座位骨盤中間位:Rt-9.7±84.9mm2,Lt-12.9±71.3mm2)で筋断面積が有意に小さくなった。そのほかの肢位では有意差は認められなかった。また,安静呼吸および腹部引き込み動作での肢位の違いによる筋断面積には有意差が認められなかった
【考察】
腰部多裂筋は,主に腰椎の棘突起・椎体・椎弓から,仙骨・腸骨稜・腰椎の乳様突起に停止するため,脊柱の伸展や骨盤前傾などに関与する。先行研究において,座位骨盤前傾位での腹部引き込み動作では,腰部多裂筋の筋活動がおこると報告されている。今回,骨盤前傾時に多裂筋の筋断面積に変化が生じたことから多裂筋が収縮していたと考えられる。男性では骨盤前傾位や息を吐ききることで腰部多裂筋の筋断面積は大きくなると報告されている。しかし,女性を対象とした本研究においては,骨盤前傾と中間位で筋断面積は減少した。腰椎の前弯や骨盤の形状は女性と男性では大きく異なっている。また女性は,座位姿勢保持のために多裂筋以外の背筋群を強く収縮させる可能性もある。これらのことから,多裂筋の筋断面積変化は収縮しながらも小さくなったと推察された。今後は多裂筋の筋断面積と筋収縮の関係について性差の違いを明らかにするために,女性の多裂筋の筋活動を筋電図を用い検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
女性の骨盤前後傾,中間位,立位における腹部引き込み動作時の多裂筋の筋断面積変化を知ることで,今後の理学療法の一指標となり,超音波診断装置を用いながら運動療法をおこなう際の一助となり得る。