[P3-B-0906] 関節不動時の関節構成体に出現するαSMA陽性細胞-免疫組織科学的検討
キーワード:ラット, 拘縮, 病理組織学
【はじめに】
関節可動域制限は理学療法の治療対象として上位に挙げられ,臨床でよく接するもののひとつである。関節可動域制限の程度,治療効果は可動域のみによって評価されており,成因や機序について未だ明らかになっているとは言いがたい。我々は以前からラットの膝関節を不動化し,関節可動域制限の病態を観察し,治療によってどのように関節構成体が変化するのかを検討した研究を報告してきた。今回,ラット後肢を不動化したまま懸垂を行い,関節構成体の変化を免疫組織学的に検討する事を目的に実験を行った。
【方法】
9週齢のWistar系雄性ラット(n=6)を使用した。ラットは全身麻酔下で体重を測定し,先行研究と同様に創外固定を使用して右後肢膝関節を120度屈曲位で不動化した。ついでラットの尾部にKirschner鋼線を刺入した。刺入の部位は触診により尾骨の中心部とし,椎間板に刺入しないように留意した。刺入後にステンレスワイヤーを通し,ラットをケージに入れた後にワイヤーをケージのフタより引きだし,後肢が接地しないように懸垂を行った。実験期間は2週間とし,期間中に懸垂ラットは尾部,後肢を懸垂したまま水と餌を摂取する事が可能であった。照明は12時間おきに点灯・消灯を繰り返した。実験期間終了後,体重を測定した後にラットを安楽死させ先行研究と同様に右後肢を股関節より離断して採取し,左後肢も対照として同様に採取した。下肢は中性緩衝ホルマリンで組織固定を行い,Plank Rychlo液を用いて脱灰を行った。その後,矢状面にて二割し,5%無水硫酸ナトリウム溶液で中和した後にパラフィン包埋し組織標本を作製した。その後ミクロトームを使用して使用して3μmの厚さで連続切片を作成し,その連続切片に対してHE染色と免疫染色を行った。染色は通常手技で行い,使用する抗体はαSMAおよびCD34とした。
【結果】
ラットの体重は実験開始時に平均308.7±7.2gであったが実験終了時には平均330±9.0gとなり,2週間で有意に増加していた。HE染色では対照(左側)では軟骨表層は滑らかであり関節腔に露出している像が観察されたが,不動化を行った右側では全例で滑膜組織と連続した,線維芽細胞に類似した紡錘形細胞からなる肉芽様組織の増生が軟骨表層に観察された。この肉芽様組織と滑膜においてαSMA陽性の紡錘形細胞が観察された。同細胞は連続切片のHE染色の観察では血管と独立しており,かつCD34陰性であった。
【考察】
本研究により観察されたαSMA陽性,CD34陰性の紡錘形細胞は,筋線維芽細胞と考えられた。筋線維芽細胞は炎症後の組織修復に関わるとされており,過剰に産生される事により組織の線維化を生じる事が明らかになっている。近年では外傷による関節可動域制限の原因として関節包での筋線維芽細胞の増生について研究がなされ,諸家の報告がなされている。また,関節不動モデルの滑膜で筋線維芽細胞の発現が見られるとする報告もなされている。今回,滑膜および我々が先行研究で報告してきた関節軟骨表層の肉芽様組織において筋線維芽細胞と考えられる細胞の増生を観察した事から,関節不動は関節構成体に何らかの局所的な変化を生じ,炎症細胞の介在は見られないものの,炎症に準じた組織変化が引き起こされた可能性が示唆される。今後はこの局所的な変化を引き起こす機序を明らかにする事で,どのような介入により関節構成体の線維化の抑制あるいは予防が可能かを検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
関節不動時の関節構成体の病的変化に,筋線維芽細胞が関与している可能性を明らかにした。この結果は,関節可動域障害の病態についての新たな知見であるとともに,その予防および治療の研究における新たな指標になると考えられる。
関節可動域制限は理学療法の治療対象として上位に挙げられ,臨床でよく接するもののひとつである。関節可動域制限の程度,治療効果は可動域のみによって評価されており,成因や機序について未だ明らかになっているとは言いがたい。我々は以前からラットの膝関節を不動化し,関節可動域制限の病態を観察し,治療によってどのように関節構成体が変化するのかを検討した研究を報告してきた。今回,ラット後肢を不動化したまま懸垂を行い,関節構成体の変化を免疫組織学的に検討する事を目的に実験を行った。
【方法】
9週齢のWistar系雄性ラット(n=6)を使用した。ラットは全身麻酔下で体重を測定し,先行研究と同様に創外固定を使用して右後肢膝関節を120度屈曲位で不動化した。ついでラットの尾部にKirschner鋼線を刺入した。刺入の部位は触診により尾骨の中心部とし,椎間板に刺入しないように留意した。刺入後にステンレスワイヤーを通し,ラットをケージに入れた後にワイヤーをケージのフタより引きだし,後肢が接地しないように懸垂を行った。実験期間は2週間とし,期間中に懸垂ラットは尾部,後肢を懸垂したまま水と餌を摂取する事が可能であった。照明は12時間おきに点灯・消灯を繰り返した。実験期間終了後,体重を測定した後にラットを安楽死させ先行研究と同様に右後肢を股関節より離断して採取し,左後肢も対照として同様に採取した。下肢は中性緩衝ホルマリンで組織固定を行い,Plank Rychlo液を用いて脱灰を行った。その後,矢状面にて二割し,5%無水硫酸ナトリウム溶液で中和した後にパラフィン包埋し組織標本を作製した。その後ミクロトームを使用して使用して3μmの厚さで連続切片を作成し,その連続切片に対してHE染色と免疫染色を行った。染色は通常手技で行い,使用する抗体はαSMAおよびCD34とした。
【結果】
ラットの体重は実験開始時に平均308.7±7.2gであったが実験終了時には平均330±9.0gとなり,2週間で有意に増加していた。HE染色では対照(左側)では軟骨表層は滑らかであり関節腔に露出している像が観察されたが,不動化を行った右側では全例で滑膜組織と連続した,線維芽細胞に類似した紡錘形細胞からなる肉芽様組織の増生が軟骨表層に観察された。この肉芽様組織と滑膜においてαSMA陽性の紡錘形細胞が観察された。同細胞は連続切片のHE染色の観察では血管と独立しており,かつCD34陰性であった。
【考察】
本研究により観察されたαSMA陽性,CD34陰性の紡錘形細胞は,筋線維芽細胞と考えられた。筋線維芽細胞は炎症後の組織修復に関わるとされており,過剰に産生される事により組織の線維化を生じる事が明らかになっている。近年では外傷による関節可動域制限の原因として関節包での筋線維芽細胞の増生について研究がなされ,諸家の報告がなされている。また,関節不動モデルの滑膜で筋線維芽細胞の発現が見られるとする報告もなされている。今回,滑膜および我々が先行研究で報告してきた関節軟骨表層の肉芽様組織において筋線維芽細胞と考えられる細胞の増生を観察した事から,関節不動は関節構成体に何らかの局所的な変化を生じ,炎症細胞の介在は見られないものの,炎症に準じた組織変化が引き起こされた可能性が示唆される。今後はこの局所的な変化を引き起こす機序を明らかにする事で,どのような介入により関節構成体の線維化の抑制あるいは予防が可能かを検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
関節不動時の関節構成体の病的変化に,筋線維芽細胞が関与している可能性を明らかにした。この結果は,関節可動域障害の病態についての新たな知見であるとともに,その予防および治療の研究における新たな指標になると考えられる。