第50回日本理学療法学術大会

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ポスター3

アライメント・その他

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0982] 脊椎矯正固定術後患者の在宅復帰に関与する術前因子の検討―第2報―

朝重信吾1,2, 伊藤貴史1,2,3, 吉川俊介1,2, 大阪祐樹1,2, 江森亮1,2, 星野雅洋2, 大森圭太2, 五十嵐秀俊2, 鶴田尚志2, 山崎浩司2 (1.苑田第三病院リハビリテーション科, 2.東京脊椎脊髄病センター, 3.苑田会リハビリテーション病院リハビリテーション科)

キーワード:脊椎矯正固定術, 歩行能力, 在宅復帰

【はじめに,目的】
平成26年度診療報酬改訂に伴い,超急性期・急性期,回復期,施設から在宅での生活の充実を図ることが必要とされている一方で,超高齢社会の中で腰痛,脊椎変性疾患は年々増加傾向にある。また,高齢者が経験する代表的な骨折の一つに脊椎圧迫骨折があり,それに伴う脊椎の変形や変性は避けられなくなっている。当院の特徴として,脊椎変性疾患患者に対して腰椎椎体間固定術,椎弓切除術が施行されている。また,脊椎の変形が著しい患者に対しては,脊椎矯正固定術を施行されることが多い。脊椎矯正固定術とは,脊椎の広範囲にわたる変形に対して胸腰椎から骨盤帯のアライメントを正常範囲に矯正し固定する手術方法である。これらの患者に対して術後翌日より理学療法を開始し,在宅復帰を目指している。しかし,術前の歩行能力低下,ADLの低下から歩行の獲得に時間を要し在宅復帰を困難にしていることがある。特に脊椎矯正固定術が必要とされる患者に関しては,術前から著明な歩行能力低下,運動機能障害,ADLの低下が見られる。また,脊椎矯正固定術後においては術後の理学療法を行う上で過度な体幹の可動が禁忌動作とされるため術前よりも運動制限が増加する。我々は先行研究において,脊椎矯正固定術後患者50名を対象に在宅復帰に関与する術前因子として歩行能力が必要であると報告した。しかし,日本で脊椎矯正固定術を施行する施設は少なく,在宅復帰に必要な術前後の運動機能やADLについて明らかにされていないことが多い。そこで,今回は,脊椎矯正固定術が必要と診断された対象患者数及び検討項目数を増やし在宅復帰に関わる術前因子を再検討することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年4月1日から2014年10月31日までに当院で脊椎矯正固定術を施行された患者91名のうち65名とした。(男性6名,女性59名,平均年齢(標準偏差):72.2(5.25)歳)とした。患者内訳は外傷性後彎症12名,変性後彎症31名,変性後側彎症18名,変性側彎症4名であり,腸骨固定まで行った患者は60名であった。除外基準は,下肢に既往歴のある者,脊椎の手術を施行したことがある者,術後麻痺が生じた者とした。検討項目は,全対象者の年齢と術前のOswestry Disability Indexより痛みの強さ・歩く・座る・立つ・身の回りの用事・職業/家事といった基本動作や日常生活動作に関連がある下位項目を抜粋し,在宅復帰に関わる因子を検討した。統計解析は,従属変数を在宅復帰の可否,独立変数を①年齢,②痛みの強さ,③歩く,④座る,⑤立つ,⑥身の回りの用事,⑦職業/家事の7項目として,変数増加法ステップワイズ(尤度比)によるロジスティック回帰分析を行い,有意水準は5%とした。
【結果】
ロジスティック回帰分析の結果,在宅復帰に関わる因子として術前の③歩くが選択された。それぞれの中央値は,在宅復帰可能群では③歩くが2であり,不可能群は4であった。また,抜粋した下位項目のそれぞれの中央値は,①年齢が73,②痛みの強さが2,③歩くが3,④座るが1,⑤立つが3,⑥身の回りの用事が2,⑦職業/家事が2であった。独立変数の偏回帰係数:-0.514,P<0.05,オッズ比:0.598であった。
【考察】
今回の研究においても,脊椎矯正固定術を施行される患者の在宅復帰に必要な因子として術前の歩行能力が挙げられ,先行研究と同様の結果が得られた。島田らは連続歩行における下肢筋の活動状態を糖代謝にて測定し,長時間の歩行遂行には股関節外転や伸展といった股関節周囲筋群が重要な役割を果たしていると報告している。今回の結果からも,脊椎矯正固定術後患者の在宅復帰に関与する術前因子に歩行能力が挙げられたことは,術前から積極的に歩いていることにより抗重力筋や股関節周囲筋の筋力低下を予防できていたのではないかと推察できる。そのため,脊椎矯正固定術後の在宅復帰には術前の歩行能力が重要であると考える。しかし,今回の研究では術前の下肢の筋力測定を行っていないため,今後は下肢の筋力測定を行う必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,脊椎矯正固定術後の在宅復帰には術前の歩行能力が重要であることがわかった。これは,術前から理学療法を介入する目的として歩行能力を向上させる必要があることが示唆された。