[P3-B-1007] 人工骨頭置換術症例の術前牽引期間と術後歩行能力の関連性
キーワード:人工骨頭置換術, 牽引期間, 歩行能力
【はじめに,目的】
大腿骨頸部骨折は,高齢化が進む我が国において急増する整形外科疾患の代表的なものである。治療手技として観血的内固定術が一般的であり,その中でも人工骨頭置換術は術後早期からの荷重歩行が可能であり,入院日数の短縮が可能とされている手術手技の一つである。術後の予後として30~50%の症例が術前よりも一段階低い歩行様式を獲得されるとされ,その要因は年齢,術前歩行レベル,認知機能等,受傷前の因子が多く報告されている。当院では外傷による骨折の場合,疼痛管理や骨折部整復の為,症例は患肢牽引にて待機され,理学療法士(以下,PT)はこの牽引時期から介入する事が多い。牽引中は著しく活動を制限され,アプローチの質や量も不十分となりやすく,術後の身体状況に何らかの影響を及ぼすのではないかと考えた。そこで今回,我々は,人工骨頭置換術症例の牽引期間が術後のADL,特に歩行能力と関連があるのか検討したので報告する。
【方法】
対象は2013年度内に大腿骨頸部骨折にて当院へ入院し,人工骨頭置換術を施術され,理学療法介入した88例とした。そのうち頸部骨折単独の例,初発骨折であり受傷前に歩行補助具の有無を問わず歩行が自立していた例,術後安静制限や荷重制限がなく荷重歩行が許可されている例を抽出した。また,認知症等により術前後の理学療法遂行に困難をきたした例,心不全等の合併症などで歩行練習が遅延した例を除外した。
方法として,まず歩行能力を独歩5点・杖歩行4点・歩行器歩行3点・平行棒内2点・車椅子1点とスコア化した。次に術後歩行能力1週目,2週目と各症例の年齢,術前歩行能力,入院前ADL(Barthel index以下,BI),骨折分類(Grden分類),術前牽引期間,術後離床開始時期との関連性を調査した。
統計は統計解析ソフトSPSS(statistics19)を使用し,Spermanの順位相関係数を用い,有意確率を5%未満として検討を行った。更に,相関を認めた項目を独立変数,術後歩行能力を従属変数としてステップワイズ法による重回帰分析を実施した。
【結果】
2013年度,当院の大腿骨頸部骨折にて入院し,前記の条件をすべて満たしたものは35例であった。35例の基本属性は,男性5例,女性30例,平均年齢80.1±6.6歳,術前歩行能力は独歩16例,杖歩行13例,歩行器歩行6例であり術前BIは92.3±12.8点であった。全例転倒などの外傷を受傷機転とし,平均3.7±1.8日間を下腿直達牽引にて待機されていた。
まず術後1週目(n=35)の歩行能力と相関を認めた項目は術前歩行(ρ=0.650,p<0.001),入院前BI(ρ=0.499,p=0.002),牽引期間(ρ=-0.342,p=0.045)の3項目であった。術後2週目(n=16)の歩行能力では術前歩行(ρ=0716,p=0.002),入院前BI(ρ=0.637,p=0.008)であり牽引期間との相関は無かった。この為,術後1週目の歩行能力をyとして重回帰式は,入院前BIが否決され,y=0.481+0.646×術前歩行能力-0.158×牽引日(決定係数R2=0.456,p<0.001)が成りたった。各項目の標準回帰係数は術前歩行能力0.578(p<0.001),牽引日数-0.343(p=0.013),であった。
【考察】
当院は急性期病院であり,症例の約半数が術後2週以内に退院もしくは転院している現状がある。今回,術後早期の歩行能力を予測する因子として定説である術前歩行能力に加え,牽引期間が採択され,回帰式が算出された。牽引期間を短縮することも視野に入れながら,牽引中のアプローチに関しても再考する必要があるのではないかと考える。入院症例を対象とするPTが症例に関われるのは,当然ながら入院後であることを考えると,牽引中のアプローチを工夫し発展的にすることで,術後能力をより改善させる一要因になりえるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
牽引期間が術後早期の歩行能力に影響することが示唆された。術前歩行能力やADLは入院してからの理学療法では変えられないが,牽引中は対応可能な期間であり,本研究は我々の術前介入の重要性を再認識する結果であると考える。
大腿骨頸部骨折は,高齢化が進む我が国において急増する整形外科疾患の代表的なものである。治療手技として観血的内固定術が一般的であり,その中でも人工骨頭置換術は術後早期からの荷重歩行が可能であり,入院日数の短縮が可能とされている手術手技の一つである。術後の予後として30~50%の症例が術前よりも一段階低い歩行様式を獲得されるとされ,その要因は年齢,術前歩行レベル,認知機能等,受傷前の因子が多く報告されている。当院では外傷による骨折の場合,疼痛管理や骨折部整復の為,症例は患肢牽引にて待機され,理学療法士(以下,PT)はこの牽引時期から介入する事が多い。牽引中は著しく活動を制限され,アプローチの質や量も不十分となりやすく,術後の身体状況に何らかの影響を及ぼすのではないかと考えた。そこで今回,我々は,人工骨頭置換術症例の牽引期間が術後のADL,特に歩行能力と関連があるのか検討したので報告する。
【方法】
対象は2013年度内に大腿骨頸部骨折にて当院へ入院し,人工骨頭置換術を施術され,理学療法介入した88例とした。そのうち頸部骨折単独の例,初発骨折であり受傷前に歩行補助具の有無を問わず歩行が自立していた例,術後安静制限や荷重制限がなく荷重歩行が許可されている例を抽出した。また,認知症等により術前後の理学療法遂行に困難をきたした例,心不全等の合併症などで歩行練習が遅延した例を除外した。
方法として,まず歩行能力を独歩5点・杖歩行4点・歩行器歩行3点・平行棒内2点・車椅子1点とスコア化した。次に術後歩行能力1週目,2週目と各症例の年齢,術前歩行能力,入院前ADL(Barthel index以下,BI),骨折分類(Grden分類),術前牽引期間,術後離床開始時期との関連性を調査した。
統計は統計解析ソフトSPSS(statistics19)を使用し,Spermanの順位相関係数を用い,有意確率を5%未満として検討を行った。更に,相関を認めた項目を独立変数,術後歩行能力を従属変数としてステップワイズ法による重回帰分析を実施した。
【結果】
2013年度,当院の大腿骨頸部骨折にて入院し,前記の条件をすべて満たしたものは35例であった。35例の基本属性は,男性5例,女性30例,平均年齢80.1±6.6歳,術前歩行能力は独歩16例,杖歩行13例,歩行器歩行6例であり術前BIは92.3±12.8点であった。全例転倒などの外傷を受傷機転とし,平均3.7±1.8日間を下腿直達牽引にて待機されていた。
まず術後1週目(n=35)の歩行能力と相関を認めた項目は術前歩行(ρ=0.650,p<0.001),入院前BI(ρ=0.499,p=0.002),牽引期間(ρ=-0.342,p=0.045)の3項目であった。術後2週目(n=16)の歩行能力では術前歩行(ρ=0716,p=0.002),入院前BI(ρ=0.637,p=0.008)であり牽引期間との相関は無かった。この為,術後1週目の歩行能力をyとして重回帰式は,入院前BIが否決され,y=0.481+0.646×術前歩行能力-0.158×牽引日(決定係数R2=0.456,p<0.001)が成りたった。各項目の標準回帰係数は術前歩行能力0.578(p<0.001),牽引日数-0.343(p=0.013),であった。
【考察】
当院は急性期病院であり,症例の約半数が術後2週以内に退院もしくは転院している現状がある。今回,術後早期の歩行能力を予測する因子として定説である術前歩行能力に加え,牽引期間が採択され,回帰式が算出された。牽引期間を短縮することも視野に入れながら,牽引中のアプローチに関しても再考する必要があるのではないかと考える。入院症例を対象とするPTが症例に関われるのは,当然ながら入院後であることを考えると,牽引中のアプローチを工夫し発展的にすることで,術後能力をより改善させる一要因になりえるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
牽引期間が術後早期の歩行能力に影響することが示唆された。術前歩行能力やADLは入院してからの理学療法では変えられないが,牽引中は対応可能な期間であり,本研究は我々の術前介入の重要性を再認識する結果であると考える。