第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法7

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1016] 脳出血患者に対する外科手術後の理学療法介入の検討

岡田有司1, 吉村洋輔2, 竹丸修央1, 上杉敦実1, 藤井賢吾1, 都竹貴志1, 河本佑子1, 吉田耕治1, 花山耕三3 (1.川崎医科大学附属病院, 2.川崎医療福祉大学, 3.川崎医科大学)

キーワード:脳出血, 外科手術, 理学療法

【はじめに】脳出血は,脳梗塞に比べて発症頻度が少なくなってきており,全体の12.8%を占める。しかし,急性期の死亡率は全体の15.4%と高い状態である。特に脳ヘルニアは,強い意識障害から生命に危険を及ぼすため,外科手術が施行される。近年の外科手術は,開頭血腫除去術のみだけでなく,内視鏡血腫除去による低侵襲手術が施行され,早期リハビリテーションへ移行できる機会が増えている。しかし,脳出血外科手術後の症例(以下,術後症例)には,意識障害,運動麻痺,嚥下障害などの一次障害に加えて,術後人工呼吸器管理が必要な症例も存在する。さらに,長期臥床となりやすく,肺炎や静脈血栓塞栓症などの合併症を引き起こす可能性が高くなる。術後症例に対して,理学療法士(以下,PT)が早期に介入し,早期離床を促し,合併症の予防・ADLの改善に関わることは重要である。しかし,術後症例に対してのPT介入の報告やその効果についてはよくわかっていない。今回,術後症例に対するPT介入が,代表的な合併症である肺炎発症の予防やADL改善に関与しているのかを後方視的に検討した。
【対象・方法】対象は平成22年1月1日から平成26年8月31日に脳出血を発症し,24時間以内に手術を施行した患者76例のうち,死亡症例,病前mRS4以上の症例,透析症例,複数回手術の症例,人工呼吸器から離脱困難な症例,気管切開をした症例,再挿管した症例を除外した41例(術式:内視鏡血腫除去術30例,開頭血腫除去術7例,脳室ドレナージ術4例)とした。調査項目は,発症時のIntracerebral hemorrhageスコア(以下,ICHスコア)(Glasgow Coma Scale,出血量,脳室内穿破の有無,年齢,テント下出血の有無),性別,入院からPT開始までの日数,端座位開始までの日数,運動療法室内PT実施までの日数,退院時Functional Independence Measure(以下,FIM)合計点,在院日数,肺炎発症の有無とした。また,肺炎発症群をA群,未発症群をB群とした。肺炎発症の有無は,成人院内肺炎診療ガイドライン2008,誤嚥性肺炎疾患班作成診断基準をもとにした。統計解析はA・B群の各2群間において,Shapiro-Wilk検定で正規性を確認後,Mann-WhitneyのU検定,χ2検定を行い,多重共線性を確認した。次に従属変数を肺炎発症の有無とし,独立変数は2群間比較,多重共線性を確認後に項目を投入し,尤度比検定による変数増加法の二項ロジスティック回帰分析を行った。なお,有意水準は5%未満,統計解析はPASW Statistics22を用いた。
【結果】対象41例は,ICHスコア2.4±0.9点,年齢59.6±15歳,男性27例,PT開始1.4±0.9日,端座位開始7.3±5日,運動療法室内PT実施9.4±6日,退院時FIM合計点49.5±29,在院日数34.4±14日,A群7例(17%),B群34例(83%)であった。各調査項目(A/B)は,ICHスコア3(2-4)/2(1-4),性別男5例/男22例,PT開始1(0-3)/1(0-4),端座位開始15(2-20)/5.5(2-20),運動療法室内PT実施18(4-21)/6.5(0-25),退院時FIM合計点25(18-59)/46.5(21-125),在院日数35(23-50)/31.5(14-72)であった。統計解析より,2群間において,端座位開始までの日数,運動療法室内PT実施までの日数がB群で短く,退院時FIM合計点がB群で高く,有意差を認めた。また,ICHスコア,PT開始までの日数,在院日数には有意差を認めなかった。次に,ロジスティック回帰分析では,肺炎発症の有無に影響している変数として,端座位開始までの日数,退院時FIM合計点が選択された(モデルχ2検定p<0.01)。端座位開始までの日数は,有意確立p=0.02,オッズ比1.64(95%信頼区間1.09から2.47),退院時FIM合計点は,有意確立p=0.03,オッズ比0.85(95%信頼区間0.72から0.99)であった。このモデルのHosmer-Lemeshow検定結果は,p=0.71で適合しており,判別的中率は95.1%であった。
【考察】対象41例のICHスコアは,平均2点であった。これは,発症30日後の死亡率が26%と報告されることより,対象例は重症な症例であった。また,各群間のICHスコアは,有意差を認めなかった。さらに,多変量解析で選択された2項目のオッズ比を比較すると,端座位開始項目で影響度が強いことが示された。よって,術後症例に対するPT介入が,肺炎発症の予防に有効であったと考えられる。また,肺炎予防がADLの改善に,逆に発症すると改善しにくいことを考慮すると,退院時FIM合計点が選択されたと考えられる。FIMのどの項目が関与したのかは不明であるが,早期から食事や移乗・移動を改善することは肺炎予防に重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】術後症例に対するPTの介入が,肺炎発症の予防に関与し,ADL改善につながることが示された。