第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-0970] ストレッチポールエクササイズによるバランス能力への介入効果の検討(第2報)

クロスオーバー比較試験を用いて

三浦幸治1, 日高雅仁1, 奈須勇樹1, 伊藤秀幸2, 鬼束有紀1 (1.一般財団法人潤和リハビリテーション振興財団延岡リハビリテーション病院, 2.学校法人山口コア学園山口コ・メディカル学院)

キーワード:ストレッチポールエクササイズ, クロスオーバー比較試験, 動的バランス能力

【はじめに,目的】
平成25年度国民生活基礎調査によると,介護が必要となった主な要因の中に転倒が含まれており転倒が社会的問題になっている。転倒とバランス能力との関連性について,新谷らは立位バランス能力の指標であるファンクショナルリーチテストと転倒関連要因に負の相関があると報告している(新谷ら,2008)。さらにバランス能力を低下させる要因の1つに脊柱アライメント不良が挙げられ,宮崎らは腰椎前弯角と片脚立位保持時間に負の相関を認めたと報告している(宮崎ら,2009)。臨床において脊柱アライメントの改善を図るため,ストレッチポールエクササイズ(以下SPex)が実施されることは多い。近年その介入効果について検討されているが,SPexによるバランス能力に対する介入効果については明らかになっていない。そこで我々は第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会においてSPexによるバランス能力への介入の効果を前後比較試験にて検討しその有効性を報告した。しかし研究の限界として,第1報は研究デザインが前後比較試験でありコントロール群を設定しなかったため,得られた介入効果の証明水準は決して高いとは言えなかった。そこで本研究は研究デザインにおいて個体差の影響やバイアスに考慮したクロスオーバー比較試験を用いてSPexの有効性を検討することを目的に実施した。
【方法】
対象は健常男性10名・女性11名(男性:年齢29.8±8.4歳・身長167.2±6.5cm・体重67.2±10.8kg,女性:年齢29.0±9.0歳・身長156.3±4.9cm・体重54.2±7.4kg)計21名とした。対象者をストレッチポール使用群(以下SP使用群)とストレッチポール未使用群(以下SP未使用群)の2群に割り付けた。介入方法はストレッチポール(LPN社製)を用いてベーシックセブンを実施し,アウトカムはファンクショナルリーチテスト(以下FRT),Timed up and go test(以下TUG),閉眼片脚立位時間とした。統計処理はRコマンダーを用い,各標本に対し正規性検定を実施し,正規性を認めれば等分散の検定を行いp>0.05であればパラメトリック検定・2標本t検定を,p>0.05であればウェルチの補正による2標本t検定を,少なくとも1つの標本において正規性が認められなければノンパラメトリック検定・マンホイットニーのU検定を実施した。さらに差の程度を検討するため効果量を算出した。
【結果】
FRTはSP使用群において介入前後での差の平均が1.02±3.03cm,SP未使用群が介入前後での差の平均-0.88±2.80cmで有意差を認めた。効果量はd=0.65で中であった。TUGは正規性が認めなかったためマンホイットニーU検定を実施したところSP使用群において介入前後での差の平均が-0.26±0.35秒,SP未使用群が介入前後での差の平均が-0.06±0.75秒でp>0.05となり有意差を認めた。さらに効果量はr=0.31で中であった。閉眼片脚立位時間ではマンホイットニーU検定を実施したところSP使用群において介入前後での差の平均が21.08±34.79秒,SP未使用群が介入前後での差の平均が7.23±37.87秒で有意差を認めなかった。
【考察】
有意差を認めた項目はFRTとTUGであり効果量は中という結果なった。FRTが向上した機序については,FRTと背部筋群との関連性が示唆されており(伊達ら,2006),さらにSPexによる背部筋硬度の有意な低下が示唆されていることから(山口ら,2006),SPexにより背部筋硬度の低下したことでFRTが向上したと考えられた。TUGが向上した機序については,SPexにより脊柱の伸展可動域が有意に向上することが示唆されており(伊藤ら,2013),さらに脊柱伸展可動性とTUGとの関連性が示唆されていることから(森藤ら,2010),SPexにより脊柱伸展可動域が向上したことでCOPの移動範囲や安定性限界が増加しTUGが向上したと考えられた。研究の限界として,今回の研究において実際に脊柱アライメントを計測していないため,対象者によっては脊柱アライメントが異なる可能性があり結果に影響を及ぼすことが考えられた。今後はこれらのことを踏まえ再度検討していく必要がある。
【理学療法研究としての意義】
SPexがバランスに与える影響を明らかにすることは,エビデンスの確立に至っていないエクササイズ効果の根拠を示すことができると考える。それによりバランス能力低下を有する対象者に適切な運動療法を実施することは転倒を予防し,さらにはQOLの向上に繋がる可能性がある。