第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

大腿骨頚部骨折

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-C-1008] 大腿骨近位部骨折術後患者の在院日数の予後予測

術後60日以内での歩行獲得及び自宅退院に影響する因子の検証

石井啓介1, 甲斐隼人1, 谷口友弘1, 今任洋就1, 中村拓人1, 寺戸一成2, 松永浩隆2 (1.蜂須賀病院, 2.蜂須賀病院)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 在院日数, 予後予測

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折術後患者の在院日数は早期退院から長期入院まで様々である。医療の包括化や一般病床の在院日数の短縮化,地域包括ケア病棟の開設等により,入院や術後早期からの在院日数に対する予後予測と退院支援が必要になってきているが,大腿骨近位部骨折術後の在院日数を予後予測する上で,判断材料となる報告は少ない。
そこで,本研究では術後早期に一般病床から地域包括ケア病棟への転棟を仮定し,術後60日以内での歩行獲得及び自宅退院が可能であるかについて,影響している因子を検証する事を目的とした。
【方法】
対象は平成21年4月から平成26年5月までの5年間に,当院にて大腿骨近位部骨折の手術を施行され退院した478例中,取り込み基準を満たした147例(平均年齢81.1±9.4歳,男性19例,女性128例,術後平均在院日数73.4±33.6日)である。取り込み基準は,①入院前生活が自宅,②退院先が自宅(転院経由を含む),③退院時移動能力が歩行レベル,④術後の合併症がなくクリニカルパス適応,とした。対象を術後60日以内退院群と術後61日以上退院群の2群に分け,各調査項目を比較検討した。調査項目は,年齢,性別,骨折型,左右,術式(BHA・CCS・CHS・SFN),術前待機日数,術前歩行レベル(独歩・杖・歩行器),MMSE点数,介護力(独居・同居),既往歴(心疾患・呼吸器疾患・中枢神経疾患・股と膝OA),骨折歴(大腿骨・椎体・橈骨・上腕骨),術後14日間のリハビリテーション(以下リハ)提供単位数とし,カルテより後方視的に調査した。
統計学的解析には各項目別の単変量解析としてx2検定,t検定を用いた。有意差が認められた項目を説明変数,術後60日以内での自宅退院の可否を従属変数とした多変量解析としてロジスティクス回帰分析を行った。また,多変量解析にて有意差が認められた項目についてROC分析を行い,カットオフ値,感度,特異度を算出した。各検定の有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析で有意差が認められた項目は,年齢(60日以内退院群77.0±11.1歳/61日以上退院群84.3±6.4歳),術式,術前歩行レベル,MMSE点数(27.0±3.6点/23.0±6.3点),中枢神経疾患既往,椎体骨折既往,上腕骨骨折既往であった。多変量解析の結果では,年齢(P<0.01),MMSE点数(P<0.01),中枢神経疾患既往(P<0.01)に有意差が認められた。年齢とMMSE点数で実施したROC分析の結果では,年齢のカットオフ値81歳(感度68%,特異度63%),MMSE点数のカットオフ値27点(感度60%,特異度82%)であった。年齢81歳以下,MMSE点数27点以上,中枢神経疾患既往無し,の3条件がある場合,術後60日以内に歩行レベルで自宅退院できる可能性は82%であった。逆に年齢82歳以上,MMSE点数26点以下,中枢神経疾患既往有り,の3条件がある場合は8%であった。
【考察】
今回の検証結果では,大腿骨近位部骨折術後60日以内での歩行獲得及び自宅退院に影響していた因子は,年齢,MMSE点数,中枢神経疾患既往であった。これらの因子は,大腿骨頚部・転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版)に記載された歩行獲得に影響する因子と同様であり,歩行獲得の遅れが在院日数に影響していると考えられた。先行研究では,在院日数に影響する因子として,介護力やリハ提供単位数があるが,今回の調査では有意差は認められなかった。介護力については同居家族がより高い歩行レベルを希望される場合が多く,必ずしも独居と比較して早期退院に繋がらないと考えられた。また,リハ提供単位数は当院での提供単位数が少なく,在院日数に影響を及ぼすだけのアプローチが出来ていないと考えられた。今後,リハ提供単位数を増やし,再度検証していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,大腿骨近位部骨折術後患者の在院日数の予後予測を行い,適切な退院支援と理学療法プログラムを立案する上で,影響因子が判断材料の一助になることが示唆された。