[P3-C-1069] Walking Stroop Carpetによる新しい転倒リスク評価の有用性
キーワード:Walking Stroop Carpet, 転倒, 地域在住高齢者
【目的】
従来から複数課題条件下での歩行能力評価により,転倒リスク者を検出する試みが多数報告されている。いずれも,副次課題に認知課題(計算や語想起など)や運動課題(水の入ったコップの把持など)を伴う歩行能力評価である。一方,Perrochonら(2013)は,Walking Stroop Carpet(WSC)という新しい二重課題を考案し,歩行能力評価により軽度認知障害(MCI)の早期発見が可能であることを報告した。WSCは,本来机上で行われるストループ課題を歩行路に模したもので,指示された文字や色のターゲットを踏み分けながら歩行するテストである。今回我々は,WSCが転倒リスク者の検出に有効であるとの仮説の下,それを立証するために検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は,高知県下の某自治体にて2014年9月に実施された二次予防事業対象者の把握事業に参加した地域在住高齢者の中で,質問紙により過去1年以内の転倒が確認された15名(転倒群:平均80.3±6.0歳),転倒歴のない15名(非転倒群:平均77.5±4.7歳)とした。今回用いたWSCは,幅1m×長さ5mの歩行路に「赤色」「青色」「黄色」「緑色」と書かれたターゲットを横4列×縦10列に配置したものである。また,ターゲットの文字は異なる色彩で印刷されており,文字と色彩は一致しない(例えば「赤色」という文字が黄色で印刷されている)。WSC課題は,WSC上の指示した文字のみを踏んでいく(例えば「赤色」と書かれた文字のみを選択する)文字条件,指示した色彩のみを踏んでいく(例えば黄色で印刷された文字のみを選択する)色条件,また文字をモノクロ印刷したWSCを用いて,指示した文字のみを踏んでいく白黒条件の合計3条件で構成し,各条件を1回ずつ歩行した。その際,要した時間を測定するとともに,踏み誤りや踏み抜かりの回数を測定した。また,一般的な歩行能力評価法である10m歩行(快適・努力)とTimed Up & Go test(TUG)も実施し時間を測定した。統計解析には,すべての測定項目について群間でunpaired t-testを実施,WSC課題の踏み誤り・踏み抜かりのエラー回数は,各条件につき群間でMann-Whitney’s U testを実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。また,WSCが転倒有無をどれだけ判別するか検討するために,ROC曲線を描いて評価した。目的変数には転倒歴の有無,説明変数にはWSC3条件(白黒,色,文字条件)の遂行時間と歩行能力評価のうちt-testで有意差を認めた変数を投入した。ROC曲線からは,転倒歴の有無を判断するカットオフ値を決定し,感度と特異度を算出した。また,判別性能はROC曲線下面積(AUC)で求めた。
【結果】
WSC各条件の遂行に要した時間は,白黒条件(転倒群11.5±2.4秒,非転倒群11.8±6.2秒),文字条件(同14.3±2.4秒,14.6±3.9秒)で群間に有意差を認めなかったものの,色条件(同7.0±2.5秒,5.2±1.3秒)では有意差を認めた(p<0.05)。歩行能力評価については,10m歩行時間(快適・努力)では有意差を認めなかったが,TUG(同10.8±2.8秒,8.1±2.1秒)では有意差を認めた(p<0.01)。WSCにおけるエラー回数は,すべての条件において群間に有意差を認めなかったものの,色条件が他の2条件よりエラー回数が少なかった。ROC曲線について,WSCの3条件とTUGを説明変数に投入し解析したところ,WSC(色条件)の判別性能が最も高く(カットオフ値=4.97秒,感度=86.7%,特異度=73.3%,AUC=0.82),続いてTUG(カットオフ値=9.40秒,感度=73.3%,特異度=73.3%,AUC=0.79)であった。WSCの白黒条件と文字条件は,いずれも判別性能が低かった。
【考察】
WSC(色条件)について,非転倒群より転倒群の遂行時間が有意に遅延していること,また転倒有無の判別性能が高かったことから,本テストは転倒リスク評価として有用であると考えられた。色条件では,遂行時間が短く踏み誤りなどのエラーが少なかったことから,ターゲット選択が容易であったことが推測され,それ故に歩行速度が速くなり,より鋭敏に対象者の歩行能力を反映したと考える。ストループ課題により評価される機能(選択的注意や抑制)は,自立した日常生活を営む上で重要な要素であることからも,WSCの地域在住高齢者に対する転倒リスク評価としての意義は大きいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
超高齢社会において健康寿命延伸のためには歩行能力の保持が重要であり,地域在住高齢者の転倒リスクをより感度よく測定する評価の存在は重要である。また,WSCの転倒予防トレーニングへの応用も期待できる。
従来から複数課題条件下での歩行能力評価により,転倒リスク者を検出する試みが多数報告されている。いずれも,副次課題に認知課題(計算や語想起など)や運動課題(水の入ったコップの把持など)を伴う歩行能力評価である。一方,Perrochonら(2013)は,Walking Stroop Carpet(WSC)という新しい二重課題を考案し,歩行能力評価により軽度認知障害(MCI)の早期発見が可能であることを報告した。WSCは,本来机上で行われるストループ課題を歩行路に模したもので,指示された文字や色のターゲットを踏み分けながら歩行するテストである。今回我々は,WSCが転倒リスク者の検出に有効であるとの仮説の下,それを立証するために検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は,高知県下の某自治体にて2014年9月に実施された二次予防事業対象者の把握事業に参加した地域在住高齢者の中で,質問紙により過去1年以内の転倒が確認された15名(転倒群:平均80.3±6.0歳),転倒歴のない15名(非転倒群:平均77.5±4.7歳)とした。今回用いたWSCは,幅1m×長さ5mの歩行路に「赤色」「青色」「黄色」「緑色」と書かれたターゲットを横4列×縦10列に配置したものである。また,ターゲットの文字は異なる色彩で印刷されており,文字と色彩は一致しない(例えば「赤色」という文字が黄色で印刷されている)。WSC課題は,WSC上の指示した文字のみを踏んでいく(例えば「赤色」と書かれた文字のみを選択する)文字条件,指示した色彩のみを踏んでいく(例えば黄色で印刷された文字のみを選択する)色条件,また文字をモノクロ印刷したWSCを用いて,指示した文字のみを踏んでいく白黒条件の合計3条件で構成し,各条件を1回ずつ歩行した。その際,要した時間を測定するとともに,踏み誤りや踏み抜かりの回数を測定した。また,一般的な歩行能力評価法である10m歩行(快適・努力)とTimed Up & Go test(TUG)も実施し時間を測定した。統計解析には,すべての測定項目について群間でunpaired t-testを実施,WSC課題の踏み誤り・踏み抜かりのエラー回数は,各条件につき群間でMann-Whitney’s U testを実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。また,WSCが転倒有無をどれだけ判別するか検討するために,ROC曲線を描いて評価した。目的変数には転倒歴の有無,説明変数にはWSC3条件(白黒,色,文字条件)の遂行時間と歩行能力評価のうちt-testで有意差を認めた変数を投入した。ROC曲線からは,転倒歴の有無を判断するカットオフ値を決定し,感度と特異度を算出した。また,判別性能はROC曲線下面積(AUC)で求めた。
【結果】
WSC各条件の遂行に要した時間は,白黒条件(転倒群11.5±2.4秒,非転倒群11.8±6.2秒),文字条件(同14.3±2.4秒,14.6±3.9秒)で群間に有意差を認めなかったものの,色条件(同7.0±2.5秒,5.2±1.3秒)では有意差を認めた(p<0.05)。歩行能力評価については,10m歩行時間(快適・努力)では有意差を認めなかったが,TUG(同10.8±2.8秒,8.1±2.1秒)では有意差を認めた(p<0.01)。WSCにおけるエラー回数は,すべての条件において群間に有意差を認めなかったものの,色条件が他の2条件よりエラー回数が少なかった。ROC曲線について,WSCの3条件とTUGを説明変数に投入し解析したところ,WSC(色条件)の判別性能が最も高く(カットオフ値=4.97秒,感度=86.7%,特異度=73.3%,AUC=0.82),続いてTUG(カットオフ値=9.40秒,感度=73.3%,特異度=73.3%,AUC=0.79)であった。WSCの白黒条件と文字条件は,いずれも判別性能が低かった。
【考察】
WSC(色条件)について,非転倒群より転倒群の遂行時間が有意に遅延していること,また転倒有無の判別性能が高かったことから,本テストは転倒リスク評価として有用であると考えられた。色条件では,遂行時間が短く踏み誤りなどのエラーが少なかったことから,ターゲット選択が容易であったことが推測され,それ故に歩行速度が速くなり,より鋭敏に対象者の歩行能力を反映したと考える。ストループ課題により評価される機能(選択的注意や抑制)は,自立した日常生活を営む上で重要な要素であることからも,WSCの地域在住高齢者に対する転倒リスク評価としての意義は大きいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
超高齢社会において健康寿命延伸のためには歩行能力の保持が重要であり,地域在住高齢者の転倒リスクをより感度よく測定する評価の存在は重要である。また,WSCの転倒予防トレーニングへの応用も期待できる。