第50回日本理学療法学術大会

講演情報

分科学会 シンポジウム

日本神経理学療法学会 分科学会 シンポジウム8

脳卒中後遺症者の歩行再建―これまでのあゆみと可能性への挑戦―

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:50 第2会場 (ホールC)

座長:大槻利夫(上伊那生協病院)

[S-08-3] 慢性期脳卒中後遺症者に対する歩行の再建

渡邊裕文 (六地蔵総合病院リハビリテーション科)

ヒトは進化の過程で二足直立と二足歩行を獲得してきた。これは四足歩行に比べ,支持基底面を狭くし重心を高くした分だけ不安定となるが,両上肢が自由となるため物を運搬することなどに優れている移動(locomotion)手段である。ただ狭い支持基底面上に下肢,骨盤,体幹および頭部を保ちながら高い重心を維持し,同時に四肢の運動を制御しなければならいということは,ヒトの中枢神経系にも大きな変化が求められるようになった。当然,上肢や手をより巧緻的に使用したり,発語によるコミュニケーションを向上したりしてきたことによっても,中枢神経系は変化してきたと考えられる。上肢をより巧緻的に使用するためには,そのことにのみ注意を払うことが必要で,姿勢の保持やバランスの維持には意識せずに対応する方が効率的である。二足歩行においても,歩くこと,下肢の関節を動かすことや脚を前に出すことに,意識していたら自由な上肢や頭頸部であってもそれを上手に機能させることはできない。歩行では,このように姿勢の維持や下肢の支持,振り出しには意識せず,上肢を使ったり,コミュニケーションをとったり,外界を見たりしながら,歩行できないと効率的ではない。そのため理学療法を行ううえで,歩行の獲得を目標にすることが多いが,歩くことに意識しない歩行(自律的な歩行)を目指さないと,日常生活では実用的でないことは周知のとおりである。歩行の再建には,上記のことを念頭において理学療法をすすめていく必要がある。では自律的な歩行を目指していくにはどのように考え,どうしたらよいのであろうか。
本セッションでは,上記のことを少しでも理解して頂けるよう,慢性期の脳卒中後遺症者に対して歩行の再建を目指した理学療法を紹介する。特に麻痺側と非麻痺側の関係,身体中枢部と上下肢末梢との関係などに着目し,神経生理学的観点や運動学的観点に触れながら解説できたらと考えている。