第50回日本理学療法学術大会

講演情報

分科学会 シンポジウム

日本予防理学療法学会 分科学会 シンポジウム9

これからの介護予防における理学療法士の果たすべき役割

2015年6月6日(土) 17:30 〜 19:20 第1会場 (ホールA)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所)

[S-09-1] 予防理学療法における老年学的アプローチ

渡辺修一郎 (桜美林大学大学院老年学研究科)

団塊の世代がすべて75歳以上となり,医療や介護ニーズの急増と介護力不足の深刻化が危惧される2025年問題の予防は老年学の喫緊の課題となっている。老年学とは,諸分野の統合により,加齢変化,高齢社会の問題および解決方策などを学際的に研究する学問である。
高齢者の予防理学療法では,まず,生じうる問題を網羅的に予測する必要がある。また,問題の把握,要因分析,対策の樹立と実施,評価においては,対象者や家族を含む多職種との協働が必要となるため,とくに老年学的アプローチが重要となる。
高齢者の予防理学療法の重要な課題である介護予防に目を向けると,とくに医学,心理,栄養,教育,まちづくりなどの分野との協働の余地が大きい。医学面では,機能低下原因の病態と合併症の把握と理解が重要である。心理面では,対象の欲求の把握と実現に向けた各職種との協働が理学療法の意欲を高める。栄養は理学療法の効果をより高めるが,しばしば配慮が見逃される。理学療法への主体的参加をはかり,セルフケア能力を向上させるための教育的視点も欠かせないものである。
今日,健康づくりの重要な柱として「健康支援環境」の整備が求められている。しかし,現状をみると,回復期リハビリテーションを経た高齢者が自宅生活に戻った後,交通環境や居宅環境,福祉用具の未整備などにより活動や参加が阻害され要介護状態になることは少なくない。演者らは国土交通省の研究会において,超高齢社会に対応したまちづくりのあり方を検討し,その成果として「健康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」を策定した。健康・医療・福祉のまちづくりにとくに重要な取組みとして,住民のセルフケア能力向上のための教育・支援,コミュニティ活動の活性化,参加の促進,徒歩圏域への生活拠点の集中的配置(コンパクトシティ化),街歩きを促す歩行空間の形成,公共交通の利用環境を高めることを提唱している。