第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

5 病原体と感染症(疫学を含む)

[ODP5A] a. 臨床微生物の分離・性状

[ODP-090/WS9-7] 無症候性保菌者由来腸管出血性大腸菌の分子疫学解析

○高橋 里奈1,鵜澤 豊1,井口 成一1,宇野 浩一2,野口 秋雄2,金子 寛2,佐藤 寿夫2,菊池 賢1 (1東京女子医科大学・感染症科,2日本微生物研究所)

【目的】無症候性保菌者由来の腸管出血性大腸菌(EHEC)の分子疫学・病的意義を明らかにする。
【方法】2016-2018年に日本全国の健常食品関連従事者の検便検査で得られたEHEC のうち,デンカ生研の抗血清で型別不能となった462株のstx subtype, eae, hly, ast,の有無,遺伝子によるO血清型別(Og)を実施した。
【結果】462株のうち,stx1保有は212株,stx2保有は299株で,136株は複数のstxを保有していた。EHEC発症に関与する病原因子として知られるeae, hly, astはそれぞれ,49 (11%), 222 (48%), 89 (19%) に認められた。Ogは200株(43%)で既存のいずれの型別PCRに反応せず,non typeableであった。stx subtypeではブタから分離され,ヒトEHEC腸炎からの分離例がほとんど知られていない2eが91(20%)と1a: 154 (33%), 2a: 115 (25%) に次いで多く分離されていた。2e陽性株からはeae, hylは検出されなかった。
【考察】無症候性保菌者由来のEHECには非常に多様な遺伝背景を持つ株が多く含まれており,多くの株でその病原性は低いことが示唆された。しかし,このような株から新たな高病原性EHECが誕生することも危惧され,EHECの制御のためにも,無症候性保菌株の動向調査が必要であると考えられた。