第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

6 病原因子と生体防御

[ODP6B] b. 毒素・エフェクター・生理活性物質

[ODP-141/WS7-2] ボツリヌス毒素複合体の無毒成分HAによる細胞増殖促進機構の解析

○阿松 翔1,2,藤永 由佳子1 (1金沢大・医・細菌学,2金沢大・医・法医)

ボツリヌス毒素はボツリヌス菌および類縁菌が産生する神経毒素であり,ボツリヌス症を引き起こす。食物に混入した毒素に起因する食餌性ボツリヌス症および腸管内における菌の感染が前提となる腸管ボツリヌス症において,毒素は腸管上皮から吸収され,末梢神経で神経伝達を阻害する。毒素複合体の無毒成分タンパク質の1つヘマグルチニン(HA)は,糖鎖結合活性により腸管上皮細胞に結合し,E-カドヘリン結合活性により細胞間接着を阻害することが知られている。HAを添加したヒト大腸がん由来Caco-2細胞やイヌ腎上皮由来MDCK細胞などの上皮系培養細胞は増殖が亢進することが知られているが,その分子機構は不明である。本研究では,HAが細胞増殖を亢進する際に活性化するシグナル経路を解明することを目的とする。種々の培養細胞にHAを添加し,37℃で24時間インキュベートした後,生細胞数測定試薬SF(ナカライ)を用いて細胞増殖を測定した。HAの糖鎖結合またはE-カドヘリン結合欠損変異体を作製し,細胞増殖亢進活性を測定した。細胞増殖亢進時に活性化されるシグナル経路を同定するために,MDCK細胞に対してHAと各種阻害剤を同時に添加した。HAの機能欠損変異体を用いた解析および各種培養細胞を用いた解析により,細胞増殖の亢進にはHAとE-カドヘリンの相互作用が必須であることが明らかになった。細胞増殖の関連分子に対する種々の阻害剤の解析から,HAによる細胞の増殖亢進において,Rho-ROCKシグナル経路の活性化が重要であることが示唆された。今後,以上の結果を基にHAが活性化する細胞内シグナル経路について解析を進めていきたい。