第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

6 病原因子と生体防御

[ODP6B] b. 毒素・エフェクター・生理活性物質

[ODP-149] ボツリヌス菌が産生するメンブレンベシクルに対する宿主応答の解析

○小林 伸英,北村 真悠,齋藤 和輝,油谷 雅広,阿松 翔,松村 拓大,藤永 由佳子 (金沢大・医・細菌学)

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の芽胞を乳児や腸内細菌叢が撹乱された成人が摂取すると,腸管内でボツリヌス菌が定着し,腸管ボツリヌス症を発症する。既存のボツリヌス研究はボツリヌス毒素に対する生化学的アプローチが主体であり,他の菌体成分が宿主との相互作用に果たす役割は明らかになっていない。
近年,細菌が産生する膜小胞(membrane vesicle: MV)が宿主の病態に寄与することが明らかになってきている。我々は,ボツリヌス菌が産生するMVに着目し,C. botulinum type E Iwanai株の培養上清からMVを精製した。ボツリヌス菌由来MVを経時的に経口投与したマウスに精製ボツリヌス毒素を経口投与したところ,毒素単体と比較して生存率が低下した。MV投与マウスの腸管を詳細に解析したところ,腸管バリア機能の低下がみられた。これに対し,in vitroで単層培養した腸上皮細胞株に対してMVの添加はバリア機能を低下させなかった。一方で,単層培養した腸上皮細胞株の基底膜側でマクロファージ様細胞株を共培養すると,基底膜側にMVを加えた場合のみ,バリア機能の低下が見られた。また,ボツリヌス菌由来MVはマクロファージ様細胞株や腸上皮細胞株に貪食またはエンドサイトーシスによって取り込まれ,パターン認識受容体依存的な炎症性サイトカインの発現を誘導した。このことから,ボツリヌス菌由来MVによる腸管バリア機能の低下は上皮細胞への直接作用ではなく,免疫応答を介した間接的なものであることが示唆された。以上の結果から,ボツリヌス菌が産生するMVは免疫応答の誘導を介して腸管上皮バリア機能を低下させ,毒素吸収などの病態に寄与する可能性がある。