第94回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S11] 抗菌薬標的タンパク質の生化学

2021年3月25日(木) 15:45 〜 18:15 チャンネル3

コンビーナー:田辺 幹雄(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所),村田 武士(千葉大学 理学研究院)

[S11-2] 歯周病細菌叢の病原性を抑える試み

○佐藤 啓子1,納屋 昌実5,近藤 好夫1,武部 克希2,内藤 真理子1,鈴木 守2,今田 勝巳3,石川 岳志4,佐藤 主税5 (1長崎大・医歯薬,2大阪大学蛋白質研究所,3大阪大学大学院理学研究科,4鹿児島大学工学部,5産業技術総合研究所)

歯周病患者の歯周細菌叢は,特定の分泌装置(Type IX Secretion System: T9SS)を持つ数種の細菌,特に Porphyromonas gingivalis の存在下で病的細菌叢に変化する。T9SSは,バクテロイデーテス門細菌の Tannerella forsythia, Prevotella intermedia 等の歯周病細菌にも保存され,病原性発現に関与していると考えられている。これらの菌種の9型分泌装置からは数十種類のタンパク質が分泌されており,P. gingivalis では,この分泌装置によって,組織障害性プロテアーゼ,関節リュウマチに関わるとされるシトルリン化酵素,赤血球凝集因子など,少なくとも30弱程のタンパク質が分泌される。また,T9SSはバクテロイデーテス門細菌の滑走運動装置としても機能しており,口腔滑走細菌においては,T9SSによる滑走運動でバイオフィルム拡張が示唆されている。菌の集落観察では,滑走運動の有無によりバイオフィルム形態が大きく異なることが示唆された。T9SS を持つ複数の菌種を一度に制御できれば,混合感染症である歯周病菌叢を大きく変えられる可能性があると考えた。T9SSは,PorK, PorL, PorM, PorN複合体をコア構造としており,このうち1つでも欠損したT9SS変異株は,複数のタンパク質分泌が抑えられ,病原性が大きく低下する。T9SSのコア構造の1つであるPorMについて結晶構造解析を行った。PorMは2量体を形成し,非対称のねじれたロッド構造をしていた。