第94回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S4] 病原細菌と宿主免疫の鬩ぎ合い

2021年3月24日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:久堀 智子(岐阜大学大学院医学系研究科),日吉 大貴(長崎大学熱帯医学研究所)

[S4-4] 消化管内環境と相互作用する生体防御力に呼応する病原細菌の挙動

○津川 仁 (慶應大・医・医化学)

生体の恒常性は,自己有核細胞だけでなく腸内細菌とも協調した「超個体」として維持されている。マウスへサルモネラを経口感染させる前に抗菌薬を投与しておくと,サルモネラに対する宿主抵抗性は顕著に低下する。一方,サルモネラを腹腔投与した場合,抗菌薬による宿主抵抗性の低下は認められない。つまり,腸管粘膜フロントラインバリアは「超個体」として維持され,我々の腸管感染防御システムは共生細菌との共闘関係にある。本研究は,この共闘関係の解明にフォーカスし,腸内細菌代謝産物の短鎖脂肪酸は,inflammasomeの構成分子であるASCのPYRINドメインへの結合性を有し,ASCへの結合はinflammasomeの活性化を増進させ,サルモネラの感染抵抗性の発揮に貢献することを明らかにした(PLoS Biol., 18, e3000813, 2020)。一方,腸内細菌の中には無症候性保菌となる潜在的病原細菌(pathobiont)も含まれ,易感染宿主を標的に感染症を発症させる。本研究では,老齢マウスを用いた解析から加齢に伴い腸管粘膜マクロファージが減少することを明らかとし,マクロファージの枯渇により腸内共生Klebsiella pneumoniaeが腸管上皮細胞内への侵入と細胞内増殖を開始し,全身感染を誘発することを明らかにした。この様に,腸管粘膜フロントラインバリアは共生細菌の恩恵を受けバリア機能を高める一方で,腸内細菌内のpathobiontを監視し,その病原性を制御し続けている。本演題では,明らかになり始めた腸管粘膜フロントラインバリアによるK. pneumoniaeの病原性制御機構と併せて報告する。