第94回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[WS6] 選抜ワークショップ:微生物の分子論(遺伝子・タンパク質・情報伝達・代謝・各種オミクス等)

2021年3月24日(水) 16:00 〜 18:00 チャンネル3

コンビーナー:塩見 大輔(立教大学),桑原 知巳(香川大学)

[WS6-1/ODP-040] プロファージ内プロファージによる大腸菌への3型分泌エフェクターと志賀毒素遺伝子の蓄積メカニズム

○中村 佳司1,小椋 義俊2,後藤 恭宏1,林 哲也1 (1九大院・医・細菌学,2久留米大・医・感染医学)

バクテリオファージ(ファージ)の水平伝播は病原細菌の進化において重要な役割を果たす。多くのファージは,インテグラーゼによる相同組換えにより,プロファージ(PP)として宿主染色体内に挿入される。また,同一の組換え部位(att site)を利用するPPsは同じ部位にタンデムに挿入されることがある。志賀毒素(Stx)産生性大腸菌(STEC)や腸管病原性大腸菌(EPEC)のゲノム上には10-20ものPPが存在し,その多くに3型分泌系(T3SS)エフェクターがコードされている。我々は,同一部位に挿入されているように見えるPPのクラスターにおいて,単純なタンデム挿入ではなく,PPが別のPPゲノムのT3SSエフェクターコード領域周辺のatt siteに挿入されていることを見出した。約800株の大腸菌コンプリートゲノムを対象としたatt配列のBLASTN検索により,att siteを有するPPがSTEC・EPECに幅広く分布していることが明らかとなった。また,T3SSエフェクターをコードするPPのPP内挿入が複数の血清型で確認され,PP内へのStxファージ挿入によりStxファージが重複した菌株も存在した。PPゲノム内に特定されたatt配列は宿主染色体上の配列に由来しており,2あるいは3種類のatt配列をコードするPPも存在し,複雑かつ様々な構成のPPクラスターが生まれていることが明らかとなった。以上のことから,「PP内PP」は,1) STEC・EPEC菌株へのT3SSエフェクター遺伝子の蓄積,2) Stxファージの重複,3) EPECからSTECへの転換を促進することが示唆され,臨床的・生物学的に重要なファージ間相互作用であると考えられた。