第94回日本細菌学会総会

講演情報

若手研究者支援シンポジウム

[YRS2] 研究環境の選択と適応 ―テーマの探し方、付き合い方―

2021年3月23日(火) 13:00 〜 15:00 チャンネル2

コンビーナー:阿戸 学(国立感染症研究所),松本 靖彦(明治薬科大学)

[YRS2-1] 科学研究を生業として持続させていくために —国立研究所の場合を中心に—

○阿戸 学 (国立感染研・ハンセン研・感染制御)

学生が,科学研究の門をたたき,知識や技術の習得を通して研究者を志し,研究職を得て研究に専念して,新規知見を社会にもたらす。こうしたロールモデルが危機に瀕している。未知の課題に取り組み人類の知識を科学的手法によって拡大していく,これが,科学支援する理由であるが,近年,研究機関の予算やポストの縮小,技術開発への偏重から,基礎科学の発展が失われつつある。公募要領を正しく読み解けばどのような能力・スキルが求められているかを事前に認識することができるが,それには周到な情報収集と自分の持つ特性とどれだけマッチしているかの分析が必要である。我々が研究対象としている細菌も,かつて考えられていたような,急速に増殖して大量の個体数によって,種としての生存確率を上げるという戦略を取っているわけではない。周囲の環境の変化を感知し,それに応じて代謝や表現系を制御することにより,生存するべく進化してきた。このような細菌の生存戦略から学ぶべきものがあるだろう。公的研究機関の場合,定員に空きがある場合は,規則上公募を経て研究者が採用される。採用側では,予定官職での研究課題は事前に決められていることも少なくない。従って,公的研究機関に応募しようとする場合,「自分の研究」を持ち込んで展開できる可能性は非常に低い。逆に,多くの場合,社会の要請に基づいて研究課題が提示される。このことから,「この研究テーマ一筋」という研究者は,公的機関での研究に向いておらず,「どの研究課題でも興味を持って進められる」特性を持つ方が適応できる可能性が高い。大学での脇役が,公的機関では即戦力として花開くことは十分ありうるのである。