第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP7] 2. 生態-b. 細菌叢

[ODP-030] 瘢痕部に定着するStaphylococcus aureusならびに Staphylococcus caprae

小倉 康平1,古屋 紘花2,高橋 夏樹1,岡本 成史1,大貝 和裕3,須釜 淳子4 (1金沢大・新学術,2金沢大・医薬保・保健学,3金沢大・医薬保・AIセンター,4藤田医科大・保健衛生)


【背景】褥瘡は,一般的には床ずれと呼ばれ,寝たきり高齢者の疼痛・不快感の増強を引き起こす皮膚創傷である.体圧分散など適切な看護ケアにより,褥瘡は治癒され瘢痕となるが,ケアが継続的に実施されているにも関わらず,褥瘡は高い頻度で再発する.我々は現在,褥瘡の再発有無にはケア以外の要因が関与するという仮説のもと,瘢痕部に存在する細菌叢に着目している.
【目的と方法】介護療養型医療施設の寝たきり高齢者と対象として,初回治癒後に瘢痕部細菌を採取し,褥瘡が再発した群(7名)と非再発であった群(22名)との間で細菌叢の比較を行った.16S rRNA V3-V4領域を対象とした細菌「属」同定シーケンス解析の後,Staphylococcus属のみについて細菌「種」同定のシーケンス解析(Single locus sequence typing)を実施した.
【結果】 褥瘡再発群においては,S. aureusあるいはS. capraeのいずれか一菌種が高い割合で存在していた.マウス瘢痕部への滴下感染から,両菌種は,マウスの瘢痕部への定着能を有していることが明らかとなった.S. aureusをマウス皮下へ注射した際には創形成が見られたが,S. capraeでは観察されず,両菌種を同時感染させた場合には,S. aureus単感染と比較して創形成が抑制されていた.S. aureusおよびS. capraeがそれぞれ放出する溶血毒素HlaおよびHldは,他方の使用済み培地存在下でいずれも産生が抑制されていた.
【考察】両菌種は,瘢痕部に定着後,互いの病原性を抑制し合うが,その存在比がいずれかに偏った際には,瘢痕部において毒素産生による障害性を発揮し,褥瘡の再発に関与することが示唆された.