第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP12] 3. 生理・構造-c. 情報伝達(菌体内・菌細胞間)

[ODP-058] コレラ菌のピルビン酸・オキサロ酢酸走性受容体の同定

田島 寛隆1,2,八尾 和輝3,福島 千晃1,西山 宗一郎1,4,川岸 郁朗1,2,3 (1法政大・生命科学・生命機能,2法政大・ナノテクセンター,3法政大・院理工・生命機能,4新潟薬科大・応用生命)


コレラ菌 Vibrio cholerae は, 淡水中とヒト体内という大きく異なった環境を行き来する生活環をもつ.そのため,環境中の様々なシグナルを受容し, 適切に応答する必要がある. また,コレラ菌の走化性は病原性にも関与することが知られている.しかし,コレラ菌のもつ45種もの走化性受容体ホモログ(MCP様タンパク質:MLP)の機能は,ごく一部を除いてわかっていない.本研究では,コレラ菌にCheY3を過剰発現させることでべん毛のCW回転頻度を上昇させ,遊泳の方向転換頻度を上昇させることで簡便に走化性応答を検出する系を開発した.そして,この実験系を用いて誘引物質を探索した.ここでは,糖新生の基質であるピルビン酸やオキサロ酢酸に注目した.コレラ菌が宿主腸内で他菌種と競合する際に,糖新生系酵素が重要であると報告されているからである.コレラ菌にピルビン酸やオキサロ酢酸を与えると方向転換頻度が有意に低下したことから,誘引物質であると考えられた.一方で,コハク酸では差がみられなかった.つぎに,ピルビン酸やオキサロ酢酸に対する応答を媒介する受容体について検討した.同じVibrio属細菌の腸炎ビブリオV. parahaemolyticusのMLPの一つがピルビン酸を結合することが示されており,V. choleraeはこれと相同性の高いMlp2をもつ.一般に,MLPは誘引応答を媒介すると,メチル化されてSDS-PAGEでの移動度が上昇する.そこで,Mlp2にFLAGタグを付加し,Western blottingにより検出したところ,ピルビン酸およびオキサロ酢酸添加時に移動度の上昇がみられたが,コハク酸では見られなかった.以上の結果から,コレラ菌Mlp2はピルビン酸およびオキサロ酢酸走性受容体であると結論された.