第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP12] 3. 生理・構造-c. 情報伝達(菌体内・菌細胞間)

[ODP-060] Salmonella entericaクエン酸走性受容体Tcpのリガンド認識におけるマグネシウムイオンの役割

大森 楓河1,松田 茉利子1,田島 寛隆2,3,川岸 郁朗1,2,3 (1法政大・院理工・生命機能,2法政大・生命科学・生命機能,3法政大・ナノテクセンター)


Salmonella enterica serovar Typhimuriumは,クエン酸に対する誘引応答と,フェノールに対する忌避応答を媒介する走化性受容体Tcpをもつ.Tcpの特徴的な点は,クエン酸に対して適応した後にMg2+を添加すると再び誘引応答を媒介することである.Mg2+単独では誘引応答を引き起こさないことから,Tcpはクエン酸-Mg2+複合体をクエン酸とは異なる誘引物質として認識するとされてきた.しかし,Tcp-クエン酸共結晶の構造解析では,クエン酸結合部位にZn2+が配位していた.そこで,リガンド結合解析を行ったところ,Tcpのペリプラズムフラグメントはクエン酸のみには結合しなかったが,Mg2+存在下では結合した.つぎに,EDTAのクエン酸応答に対する影響を観察した.異なるEDTA濃度の緩衝液に懸濁した菌液に,クエン酸またはクエン酸-MgCl2を添加して,走化性応答を調べた.EDTA濃度が上昇するとクエン酸応答が弱くなったが,さらにMgCl2を加えるとクエン酸応答が回復した.また,走化性受容体は誘引応答を媒介すると,メチル化されて適応する.そこでTcpを唯一の走化性受容体として発現する大腸菌株に,クエン酸,MgCl2などを与えて調べたところ,確かにクエン酸,クエン酸-Mg2+によるメチル化レベルの進行が見られた.さらに,Tcpの変異体解析により,クエン酸とクエン酸-MgCl2に対する応答に関して可能な4種類全ての表現型を示す変異体が得られる.そこで,これらを用いて走性応答,メチル化を調べた.その結果,Tcpのクエン酸認識にはMg2+が必要と示唆された.