[ODP-068/W3-8] MntEを介したマンガンと亜鉛の排出はA群レンサ球菌の増殖と病原性に不可欠である
【目的】遷移金属イオンは,細菌の転写,DNA合成・修復,酸化ストレス応答などに関連するタンパク質を触媒し,その構造安定性にも寄与する.一方,菌体内での金属イオンの過剰蓄積は多くの酵素の働きを阻害して細胞毒性を引き起こす.このため,細菌は金属イオン感知機構とその制御下にある取込み・排出機構を用いて,菌体外の金属イオンの利用可能量の変化に対応する.A群レンサ球菌(GAS)はマンガン排出機構としてMntEを保持する.多くの細菌種がマンガン排出機構を所持するが,mntEの遺伝子分布はStreptococcus属内に限定的で,同属細菌種間で独自に進化してきたと考えられる.本研究ではGASの増殖と病原性におけるMntEの役割を明らかにすることを目的とした.
【方法】MntEの遺伝子欠損菌株を作成し,様々な金属を過剰に添加した培養液中での増殖を観察した.また,マウス感染によりMntEの病原性への寄与を評価した.
【結果と考察】野生株と比較して,MntE欠損菌株はマンガンを過剰添加した培養液中で増殖が抑制された.また,菌体内にマンガンが過剰に蓄積すると外環境中の活性酸素に対する抵抗性が低下することが報告されているが,本研究でも欠損菌株の活性酸素への抵抗性はマンガン過剰添加時に低下した.興味深いことに,MntE欠損菌株の増殖は亜鉛の過剰添加時にも抑制された.実際,亜鉛過剰添加時にmntEの発現増加が観察され,MntE欠損菌株内で亜鉛の蓄積が観察された.MntE欠損菌株をマウスに腹腔内感染させると,野生株感染時よりもマウスの生存率が有意に上昇した.以上より,MntEはマンガンの排出だけでなく,亜鉛の排出にも関連することでGASの増殖や病原性にも寄与することが示唆された.