第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP17] 4. 遺伝・ゲノミクス・バイオテクノロジー-b. 遺伝子水平伝播・可動性遺伝因子・進化

[ODP-080] 腸管出血性大腸菌O26:H11 ST21系統おけるStx1ファージのゲノム多様性

矢野 文悟1,谷口 愛樹1,後藤 恭宏1,小椋 義俊2,林 哲也1,中村 佳司1 (1九大院・医・細菌学,2久留米大・医・感染医学)


腸管出血性大腸菌(EHEC)の主要病原因子である志賀毒素(Stx)は,Stx1とStx2に分類される.Stxをコードする遺伝子はファージ(Stxファージ)上に存在し,Stxファージゲノムには著しい多様性が存在する.EHEC O26:H11の主要系統であるST29とST21のうち,ST21のほとんどの菌株がstx1陽性である.そのため,Stx1ファージはST21系統内で安定的に維持されていると考えられていたが,我々は前総会で報告したように,ST21系統内でStx1ファージの脱落と再獲得が起きたことを示唆する結果を得た.本研究では,ST21系統におけるStx1ファージの多様性の実態解明を目的として,当研究室が保有するST21菌株から9株を選定してStx1ファージゲノムの配列を決定し,完全長配列が公開されている14株を加えた23株のStx1ファージの比較解析を行った.Stx1ファージは,ST21C1亜系統の大部分の菌株ではtorS-torTに,また一部の株ではsbcBに挿入されていた.ST21C2亜系統ではwrbAに挿入されており,1株では2つ目のStx1ファージがyecEに存在した.Stx1ファージ間の配列類似度をMash距離によって定量化し,クラスタリング解析を行ったところ,torS-torT挿入ファージは3つのクラスターに分かれ,wrbAyecEsbcBに挿入されているファージは,それぞれ独立したクラスターを形成していた.この結果は,ST21C1亜系統内には多様なStx1ファージが存在すること,ST21C2亜系統では比較的安定にStx1ファージが保持されていることを意味する.現在,Stx1ファージの多様性とStx1産生能との関連について解析しており,本会ではその結果も報告する.