第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP25] 5. 病原性-e. 感染モデル

[ODP-158] MPSマウスを用いたHelicobacter pylori感染モデルにおける胃内細菌叢の変化について

北条 史1,米澤 英雄2,岡 健太郎3,高橋 志達3,蔵田 訓4, 花輪 智子2,神谷 茂2,三戸部 治郎2,大崎 敬子2 (1杏林大・医・実験動物施設,2杏林大・医・感染症学,3ミヤリサン製薬(株)・中央研究所,4杏林大・保健・臨床検査微生物)


Helicobacter pyloriはヒトの胃に感染し,除菌治療が施されない限り生涯にわたって持続感染している.本研究は,H. pylori 長期持続感染マウスモデルを用いて,感染がマウスの胃内細菌叢にどのように影響するかを明らかにする目的で実施した.
動物モデルは細菌感染高感受性のICR系のMPSマウスにH. pyloriを経口感染させることで作成した.感染期間終了後,胃粘膜中のDNAを抽出し,細菌16SリボソームDNAのV3-V4領域を標的とする16Sメタゲノム解析を行った.
投与したMPSマウスの全頭にH. pyloriの胃内感染を認め,感染5週後に平均104.6 CFU/g mucusが感染し,57週後に平均104.7 CFU/g mucusで維持されていた.組織所見からは著明な炎症は確認されなかった.
マウスの胃内細菌叢解析を行った結果,胃内細菌叢に占めるHelicobacter属の割合は,感染期間を通して0.1%から4.5%であった.マウス胃内細菌叢の最優勢であったのはLactobacillus属,S24-7属であった.感染,非感染群の平均占有率の比較解析の結果,科レベルの解析で感染8週後に,Bacteroidaceae,TM-7,Candidatus Homeothermusに差が認められ,属レベルの解析で,ClostridiumDesulfovibrioに差があり,門レベルの解析ではBacteroidetesに差があった.また,α多様性解析の結果,対照群のChao1インデックスは週齢間に有意差が認められなかったのに対し,感染群では8週と比較して24週が有意に高かった.
以上の結果から,H. pylori感染MPSマウスモデルにおいて本菌感染は胃内細菌叢に影響すると考えられた.本感染マウスモデルはスナネズミモデルと異なり,激しい炎症を認めないまま慢性感染を維持できるモデルとして有用であると考えられた.