[ODP-180] 腸内細菌が放出するメンブレンベシクルを介した宿主免疫誘導機構および宿主腸内細菌叢に与える影響の解析
多くの細菌はメンブレンベシクル(MV)と呼ばれる膜小胞を放出しており,MVは菌体由来成分を積載し,宿主免疫を刺激する.本研究では腸内病原菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が産生するMVの宿主獲得免疫誘導機構および宿主細菌叢に与える影響の解明を目指した. ウェルシュ菌はMVを能動的に放出し,産生されたMVは宿主自然免疫を誘導することが明らかとなっている(Obana et al. 2017. Infect. Immun.).本研究では,MVによる獲得免疫(抗体産生)誘導能を評価した.ウェルシュ菌菌体またはMVをマウスに鼻腔投与したところ,MV投与によってのみウェルシュ菌特異的血清IgGと粘膜分泌型IgA産生を誘導された.また,MV中には2つの推定リポタンパク質LipOとMalEが多く含有されており,これらが免疫優勢抗原として機能することが示された.両タンパク質欠損株由来MVをマウスに鼻腔投与したところ,野生株MVの場合と比較して特異的抗体産生誘導能が顕著に低下した.以上よりMVはこれらの免疫優勢抗原を輸送する,免疫調節因子として機能すると考えられる.加えて,腸管分泌型IgA抗体は腸内細菌叢の形成に重要であることから,MV接種により特異的腸管分泌型IgAを誘導したマウスの腸内細菌叢を解析した.MVを接種したマウスでは,Clostridium 属細菌の相対存在量が顕著に減少した.このことより,MVの鼻腔接種により誘導された腸管中のIgA抗体は,特異的な細菌に結合し宿主腸管から排除する活性を有することが示唆された.本研究より,高い免疫原性を有する腸内細菌由来MVを利用した宿主免疫調節は特異的細菌の腸内定着制御の基盤技術として有用と考えられる.