[ODP-205] 腸管出血性大腸菌 O157における変異型亜テルル酸耐性遺伝子tehAによる耐性増強
【目的】腸管出血性大腸菌(EHEC)O157の多くは亜テルル酸カリウム(PT)への耐性遺伝子群(terオペロン)を有するため,分離には選択剤としてPTを含む培地が広く用いられている.2018年に分離されたEHEC O157をPT含有培地に塗抹したところ,大小不同のコロニーが認められた.全ゲノム配列解析を行った結果,両コロニーの株ともterオペロンを保有せず,大コロニーの株には別のPT耐性遺伝子(tehA)上に1か所の非同義置換(Ala299Thr)が存在した.そこで,同変異がPT耐性に与える影響の解析を行った.
【材料・方法】Y32821(小コロニー,Sakaiと同様のtehA)またはY32859(大コロニー,変異型tehA)が有するtehAB発現プラスミドをY32859tehAB欠失変異株に導入し,相補株を作製した.これらを用いて,PTへの最小発育阻止濃度(MIC)を測定した.また,野外株でのterオペロンの欠失およびtehAの変異頻度を,感染研・細菌第一部でゲノム解読をしたEHEC O157 1,668株を対象にBLAST検索で調べた.
【結果・考察】Y32859はterオペロンを有するSakai株と同等のMIC値(100 μg/ml)を示した一方で,Y32821は低い値(6.25 μg/ml)を示した.tehAB欠失変異株では,MIC値は低下し,変異型tehAB相補株ではPT耐性が回復した.一方,Sakai型tehAB相補株では,MICの顕著な上昇は見られなかった.このため,変異型tehAがEHEC O157のPT耐性を高めることが示された.野外株では2.6%(44株)がterオペロンの全体または一部を欠失していたが,tehAの変異(Ala299Thr)はY32859株以外では認められなかった.これらの結果から,tehAの同変異は稀であるが,ter オペロン非保有大腸菌でのPT耐性につながるためEHEC分離の上で注意が必要と考えられた.