第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S7] シンポジウム7
超硫黄科学が切り拓くエネルギー代謝とストレス応答の新展開

2022年3月31日(木) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:澤 智裕(熊本大学),赤池 孝章(東北大学)

共催:学術変革領域A「硫黄生物学」

[S7-4] 大腸菌の硫化水素応答性転写因子YgaVは嫌気呼吸関連遺伝子群の発現制御を介して抗生物質耐性を向上させる

Rajalakshmi Balasubramanian,増田 真二 (東工大・生命理工)

腸内細菌の多くは酸素分圧に応じて好気呼吸と嫌気呼吸を切り替え,適切な生育状態を維持している.この呼吸鎖のスイッチングに支えられた腸内細菌叢の活動は,宿主であるヒトの代謝や健康に大きな影響を及ぼす.また適切な呼吸鎖の選択は,活性酸素種の生成を抑え,細菌の抗生物質耐性の強さをも左右する.近年の研究から,硫化水素や超硫黄分子種がこのスイッチングに関与することがわかってきたが,そのメカニズムはよく理解されていない.一方,我々は近年,硫化水素を電子源に光合成を行う紅色細菌から,硫化水素応答性転写因子SqrRを同定した.興味深いことに,SqrRのホモログは大腸菌をはじめとした腸内細菌にも保存されていた.そこでSqrRホモログの腸内細菌における機能解析を進めたところ,大腸菌のSqrRホモログYgaVは,in vivoおよびin vitroにおいて,硫化水素や超硫黄分子に応答して,硝酸還元酵素や亜硝酸還元酵素など,嫌気呼吸関連タンパク質遺伝子の発現を制御することを見出した.YgaV制御下の遺伝子は,FNRやArcABのそれらとは大きく異なっていたことから,酸化還元に依存した遺伝子発現とは異なる経路でYgaVは働くと考えられた.また,野生型の大腸菌は,硫化水素雰囲気下で生育させると抗生物質耐性が強化されるが,ygaV変異体は硫化水素の有無にかかわらず,野生型よりも抗生物質への抵抗性が常に弱まった.以上の結果から,YgaV依存の転写調節が好気呼吸と嫌気呼吸のスイッチングを適切にし,レドックス恒常性の維持と活性酸素種の生成を抑えることで,抗生物質耐性を向上させると考えられた.