第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S7] シンポジウム7
超硫黄科学が切り拓くエネルギー代謝とストレス応答の新展開

2022年3月31日(木) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:澤 智裕(熊本大学),赤池 孝章(東北大学)

共催:学術変革領域A「硫黄生物学」

[S7-5] 酵母における超硫黄分子の生理的意義―寿命制御と小胞体の恒常性維持―

西村 明1,高木 博史1,赤池 孝章2 (1奈良先端大・バイオ,2東北大・院医・環境医学)

我々はシステインパースルフィド(CysSSH)を含む超硫黄分子/活性硫黄が生体内で多量に存在し,抗酸化活性や親電子シグナル制御機能を発揮していることを見出してきた.しかし,超硫黄分子の産生機構や生理機能については未だ不明な点が多い.最近我々は,ポリスルフィド化タンパク質合成機構を解析する過程で,翻訳関連酵素:cysteinyl-tRNA synthetase(CARS)がシステインからピリドキサールリン酸(PLP)依存的にCysSSHを産生することを発見した.そこで,我々はCysSSHの生理機能を解明するために,モデル生物である出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのCARSに変異(PLP結合部位のリジンをアラニンに置換)を導入し,細胞内CysSSH含量が低下した変異株(K109A株)を作製した.驚いたことに,K109A株は野生株に比べて,老化期に強く小胞体ストレスを受けることを発見した.また,K109A株は経時寿命が大幅に減少していることも見いだした.この原因を探索した結果,小胞体の恒常性維持に重要なprotein disulfide isomerase (PDI) がポリスルフィド化によって活性制御されていることが判明した.つまり,K109A株はPDIのポリスルフィド化が正常に起こらず,小胞体のタンパク質のジスルフィド結合に不全をもたらしていると思われた.これらの結果から,CARSによって産生されるCysSSHはPDIの活性を担保することで,小胞体の恒常性を維持し,寿命の制御因子として働くことが考えられた.また,病原性真菌Candida glabrataのバイオフィルム形成におけるポリスルフィドの機能解析も現在進めており,本講演ではポリスルフィドと真菌の病原性に関しても議論したい.