第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S9] シンポジウム9
多様性で彩る抗酸菌研究の魅力

2022年3月31日(木) 09:15 〜 11:45 チャンネル4

コンビーナー:瀬戸 真太郎(結核研究所),西山 晃史(新潟大学)

共催:抗酸菌研究会

[S9-3] 非結核性抗酸菌症の宿主疾患感受性遺伝子

南宮 湖 (慶應義塾大・医・感染症学)

肺非結核性抗酸菌(NTM)症は,難治性の慢性進行性呼吸器感染症であり,近年,本邦でも急激な増加が指摘されていた.そして,その根本的な治療が存在しないことから,臨床家を日々,悩ませている.疾病克服のためには,肺NTM症の疫学的実態の把握が,重要な第一歩であり,演者は,全国の呼吸器学会認定施設にアンケート調査を行った.全国アンケート調査から1. 肺NTM症の罹患率は7年前と比較して,約2.6倍と急激に増加していること,2. 肺NTM症の罹患率は肺結核の罹患率を超えたこと,3. 肺Mycobacterium avium complex(MAC)症が肺NTM症の約90%を占めることを示し,肺NTM症が公衆衛生上,重要な呼吸器感染症であることを明らかにした(Namkoong. EID, 2016).他の集団に比較してアジア人の罹患率が高いこと,家族集積性のあること,やせ型の中高年女性に好発することから肺NTM症の感染・発症には菌側因子だけでなく,宿主因子の強い関与が示唆されていた.そこで筆者らの研究グループは,日本人・米国人・韓国人集団のコホートを用いて,肺MAC症のゲノムワイド関連解析を世界で初めて実施し,酸・塩基平衡に関わる遺伝子CHP2の関与を明らかにした(Namkoong, et al. ERJ 2021).今後は,宿主ゲノム・病原体ゲノムの両面から肺NTM症を統合的に解析することが必須であり,そのためにも臨床と基礎のトランスレーショナル研究を加速させなければいけない.今後の進むべき研究のあり方に関して,演者の私見を交えて議論を行う予定である.