[WCB-6] Streptococcus mutansにおけるクオラムセンシングを介したメンブレンベシクルの産生および機能解析
細菌は生体膜に由来する微少な膜小胞 (membrane vesicle; MV) を産生することが知られている.MVは主に脂質二重膜で構成される粒子であり,タンパク質やDNAなどの細胞由来成分を内包する.これらの内包物質はMVによって外部環境から保護され,周囲の細胞へ輸送されることから,細菌間のコミュニケーションにも利用される.また,多くの細菌はシグナル分子を用いた細胞密度依存的な細菌のコミュニケーションとして知られるクオラムセンシング (quorum sensing; QS) を行い,様々な遺伝子発現を調節している.中でも,主要な口腔細菌であるStreptococcus mutansは,QSによってオートリシン遺伝子の発現が誘導され,集団中の一部で細胞死を起こすことが知られている.これまでの研究から,グラム陽性菌のMVの産生は細胞死を介しても行われることが明らかになっているが,S. mutansのMV形成機構は明らかになっていない.そこで,私たちは,S. mutansにおいて,QSによる細胞死を介してMV産生が引き起こされると考え,実験を行った.まず,シグナル分子を添加し培養した際のMVの定量を行い,QSの誘導によってMV産生量が増大することを確認した.さらに,QS関連遺伝子の変異株を用いてMVの定量を行ったところ,自己溶菌に関与する遺伝子がMV産生に大きく関与していることが確認された.そこで,QSを介して産生されたMVの機能性を調べるため,MVに含まれるタンパク質とDNAについて,それぞれ解析を行った.結果として,誘導条件によってMVに含まれるタンパク質の種類やDNA量が異なることが確認された.誘導経路によってMVの機能が異なる可能性が示唆され,今後詳細に解析する予定である.